「失われた3000億円」を取り戻すために|「VR PARK TOKYO」を作った背景に迫る

筆者:古城 芳明

アドアーズ株式会社様は、1967年に設立し、同社の前身であるシグマ社の創業者が、大人でも楽しめる遊びを提供したいという想いから、カジノのスロットマシンをヒントに、世界で初めてメダルゲームを開発した歴史を有しています。 首都圏駅前立地を中心にメダルゲームやクレーンゲーム等を含むゲームセンターやカラオケ、コラボレーションカフェ、ダーツ等の多様なジャンルの総合エンターテインメント施設を運営する、総合エンターテインメント企業。現在は、総合エンターテインメント事業を中核に、不動産事業、商業施設建築事業、店舗サブリース事業等を展開されています。2016年12月には「VR PARK TOKYO」を設立し、本格的にVR事業への参入を開始しました。
 
今回、同社が運営する「VR PARK TOKYO」の設立について、なぜVR事業に参入したのか、そして今後のVRに関する展望などをアドアーズ株式会社 取締役 石井学様(画像中央)、企画開発部課長 袴田健様(画像右)、経営企画部IR広報グループ係長 秋山実優二様(画像左)にお聞きしました。

 
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3000億円が失われた市場|取り戻すためのイノベーションがVRだった

LIFE STYLE古城(以下古城):
御社が展開している「VR PARK TOKYO」は、ゲームセンターであるアドアーズ渋谷店の中で運営されていますが、VRコンテンツの導入に至った背景をお教えいただけますか?
 
アドアーズ石井様(以下石井):
今年でアドアーズは50周年を迎えたのですが、主要の事業は直営のゲームセンター事業です。ただこの業界は年々縮小し続けております。市場規模で言えば、ピーク時は7000億円市場だったのが、今では4000億円しかない。3000億円が失われた市場なんです。弊社も例外ではなく、ピーク時には80あった店舗が、今は40強といったところで、そこに対する危機感というのがベースにありました。特にこの6・7年の間は、ゲームセンター業界の発展に不可欠なイノベーションが起きていない。人々を惹きつけるための最新のテクノロジーが生まれていない期間だと私は個人的に思っています。そんな中、2015年にVRに触れる機会があったのですが、その時に今までゲームセンター業界を育んできたのと同じイノベーションを感じました。没入感は高く、これでゲームをやったら違う価値観が生まれるだろうなと思って、VRをゲームセンターという業態にうまく取り込めないかなと考えたのがきっかけです。
 
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古城:
なるほど。実際に触れてみて可能性を感じられたということですね。そこでVRコンテンツを1つ置いてみるという形ではなく、幾つかのVRコンテンツを集めてパークという形にしたのはどういった構想をお持ちだったのでしょうか?
 
石井:
実は我々がVRを使って何かしようと模索している最中に、他社がVRコンテンツを提供する施設をオープンされたんですね。我々が思い描いたようなことを先にやられてしまったなという思いで体験しに行ったところ、1プレイごとに料金を支払うシステムでした。だいたい1プレイにつき700円から1000円の幅で提供されていたのですが、ゲームセンターの業界では1プレイ100円という認識が一般的なので、1プレイ700円というのはなかなか受け入れられない金額で、少し難しいだろうなと。あとオペレーションの部分でどうしても人的コストがかかると思いました。そういったことを考えた時に、事業として単品で置いても利益を出すのは難しいと考えました。それに既存のアーケードゲームであれば、どういうコンテンツに人気が出るっていうノウハウはありますが、VRに関してはまだ始まったばかりでどこのオペレーターもノウハウがないので、VRに触れたことのない消費者の方がいろんなVRコンテンツに触れられる施設づくりの方が、業界に先んじれますし、今のニーズに応えられると考え、VRパークという構想を描きました。
 

VRコンテンツ選定の鍵は「感動したか否か」

古城:
初めてVRに触れられてから様々な構想があったかと思いますが、構想段階から実際に2016年12月にオープンされるまでに期間はどれくらいかかったのでしょうか?
 
石井:
VRコンテンツを探し始めたのは2016年6月からですね。アメリカのロサンゼルスで毎年「E3」(Electronic Entertainment Expo・エレクトロニック エンターテイメント エキスポの頭文字をとり「E3」。米国のロサンゼルスで開催される世界最大のコンピューターゲーム関連の見本市)と呼ばれるゲームの展示会があり、前年にVRのコンテンツが数多く発表されていたこともあって、現地に足を運んだのが始まりですね。
 
古城:
最終的に7つに絞るまでに多くのVRコンテンツを体験されたかと思いますが、どういったところが選定の決め手になったのでしょうか?
 
アドアーズ袴田様(以下袴田):
まずベースとしてあったのが「VRを初めて体験した時に感動が得られるかどうか」という点ですね。あとは多人数でワイワイしながらできること。それから、基本的には家庭用のゲーム機やスマートフォンなどで体験できるものは店舗で提供する価値が早々に薄れてしまうと考えました。そこで一番重視したのが、ルームスケール(※体の動きとVRコンテンツ内の動きがリンクするもの)を効果的に使用することにこだわりました。
 
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古城:
なるほど。確かに「VR PARK TOKYO」に伺った際に感じたこととして、2人とか3人のグループで楽しまれているお客様が多いなと思いました。それも狙って創られた空間とういうことなんですね。
 
袴田:
やっぱり今までのVRってパソコンの前でひとり黙々とやるっていうイメージがありましたが、それを打開しようと思った時に、カップルで気軽に遊びに来て欲しいなと。カップルのお客さんが楽しんでくれて、それを他のお客さんが見て楽しんでもらえるっていう構図が作りたくて。そこでこういった筐体のセット制作を行っている会社にお願いして、雰囲気も重要な要素として作り込みました。この形だとSNSでの拡散もしやすいですしね。
 
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(実際のパークの様子)
 
石井:
我々が最初にVRコンテンツを体験した時から気づいていたことなのですが、ヘッドマウントディスプレイをかけている人しかVRコンテンツの良さが体験できないというのは、エンターテインメントとしてVRの弱点だなと感じていました。そこで、ヘッドマウントディスプレイをかけないと分からない体験をどうやって他の人とも共有できるかと考えた時に、今の形のセット、それから体験している映像を映し出すためのパブリックモニターは必須だと思いました。あとはスタッフによるサービスアプローチ。こういったところを一体化させた空間を提供することで、VRコンテンツの弱点を補完できるのではと考えました。
 
古城:
実際に我々がお伺いした時もスタッフの方がとても良くしてくださって。やっぱり最初からコンセプトとして、スタッフさんが盛り上げてくれることも構想のうちに入っていたということですね。
 
石井:
そうですね。それで言うと展開しているアトラクションの一つの「CIRCLE of SAVIORS」はもともとアドアーズ渋谷店の1階に置いてあったのですが、プレイされた方の多くは外国の方なんですよ。他社さんの施設にある同じゲームも、日本人は恥ずかしがってプレイしないという声を聞きました。やはり、ひとりでヘッドマウントディスプレイをかけてゲームをしている姿を周りの人に見られるのは抵抗があるようです。
 
それに対して「VR PARK TOKYO」は1フロアに同じ目的の人が集まって、テーマパークのようにスタッフが盛り上げる空間なので、羞恥心のハードルを下げることには成功していると思います。
 
古城:
弊社のメンバーからもその部分に関して他のVRコーナーと違い、思いっきり楽しめたという声を聞いています。スタッフさんもそうだし、お客様も一緒になって盛り上がることを目的にされていたんですね。
 
石井:
そうですね。キャッチコピーにもあるんですけど、我々が目指しているものは「テーマパーク」なので。
 

VRを導入したことで新規の層を獲得

古城:
実際にVRを導入してからどういった層からの反響がありましたか?
 
石井:
もともとアドアーズ渋谷店は、オープンしてから30年以上経ちます。当時から1階にはクレーンゲームが置いてあって、若い女性が多い店なのですが、メダルゲームが多い3階以上になると途端に年齢層が上がります。当時の4階は40代以上のお客様がほとんどでした。ですが今回VRを設置したところ、訪れるお客様の8割が20代と30代だったんです。それも今まであまりゲームセンターに来たことがない方が多く、弊社としては本当に新規のお客様、しかも今まで獲得に苦労していた20代30代のお客さんということになります。
 
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古城:
なるほど。冒頭で仰っていた、市場から離れてしまった層が今回VRコンテンツを目当てに来店されるようになったということですね。
 
石井:
最初に言った「失われた3000億円」っていうのは結局のところ20代、30代の方です。スマートフォンでゲームをしたり、消費意欲がなかったりで、ゲームセンターに来ない。今の若者にとってゲームっていうのはもうお金を払ってやるものじゃない。タダで出来るものという感覚。それをわざわざ交通費をかけて遊びに行く必要がないと思っているんじゃないでしょうか。でも今回の開設によってそういった層を取り込めているなという実感はありますね。
 
古城:
単純にゲームをするという目的ではなく、「体験」をする。それも皆で盛り上がりながら「体験を共有する」といった、ある種SNSのような交流の場になっているのかもしれないですね。

 
石井:
そうですね、提供しているのはVRという最新技術なのですが、それを媒介にしたコミュニケーションというのが一番の商品価値だと思っています。
 

VR市場の成長を促すことが自分たちの役目

古城:
今後VRコンテンツを導入するにあたって、VR自体に対する課題感はお待ちですか?
 
石井:
そうですね、今のような環境で提供するコンテンツはどうしても人的コストが高くなるので、そこの解消。これに関してはハードが有線であることから無線になるだけでだいぶ解消されると考えているので、そう遠くない未来にクリアできるはずです。そして何よりも「13歳問題」についてはいずれ解決しなければいけないかなと。
 
古城:
「13歳問題」ですか?
 
石井:
はい、今「VR PARK TOKYO」ではヘッドマウントディスプレイとして「HTC Vive」を使っていますが、メーカーから13歳未満の使用は推奨しないとされています。13歳未満のお客様はVRコンテンツを体験してもらうことができないのが実情なんですね。子どもが体験できるようにして、興味を持った子どもに引っ張られて両親がやってくるといった環境整備ができないと、健全な発展はしていかないと思います。それができないのであればアダルトに偏ってしまうのではないかという懸念もありますね。
 
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古城:
なるほど、市場に対する課題感とも言えますね。御社は今後どういった方法で市場の成長を促していくかお聞きできますか?
 
石井:
今の「VR PARK TOKYO」は、エンドユーザーに対して「感動を与える」場を提供するという役割があります。今後はVRコンテンツを提供しているクリエイターやベンチャー企業に対して、エンドユーザーにコンテンツを届けるためのショールームにしていきたいと考えています。クリエイターやベンチャー企業はコンテンツを発信する場を提供することで、ユーザーからのフィードバックをすぐにもらうことが可能となるため、よりよいコンテンツを開発することができます。よりよいコンテンツが増えるとパークが盛り上がるという、お互いに取っていい関係が築けると考えています。

 
古城:
クリエイターが作ったコンテンツを、どこに出すかという課題は解消する必要がありますよね。やっぱりVRコンテンツを「体験」として昇華できる場を提供するというのは、クリエイターたちにとっても非常に良いことだと思います。最後に、今後のVR事業に関してどういった展望をお持ちかお聞きできますか?
 
石井:
こうしてVRを導入することで、今までテレビCMをやってもイベントをやってもゲームセンターに来なかった一般の人たちをコンテンツの力で取り込めているというのは、これはアドアーズの長い歴史の中でも例を見ない出来事です。そういう意味でも変化のきっかけになるサービス業態だと思います。これを基軸にアドアーズとして変わっていきたい、ゲーム業界を変えていきたい、そしてお客様に新しいエンターテインメントを提供していきたいという思いが強いです。
加えてVRを用いて経済活動をしていくなら、市場自体を広げる使命があると感じています。まだVRに触れたことがないという人の割合がはるかに多い。実際にお客様の7割くらいがVRに触れたことがないという方ばかりです。そういった方たちにVRへの接触機会を増やしてあげるというのが、我々のVR市場における役割だと思っています。
 
 
ー石井様・袴田様・秋山様 貴重なお話を誠にありがとうございましたー
 

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