【STORY × 三越伊勢丹×電通×アマナ】「VRをきっかけに知らない場所を見る」

筆者:古城 芳明

日本の良さを、新しい価値として国内外に発信する三越伊勢丹の取組み「JAPAN SENSES」。今年3月末の催しでは、「Dentsu VR Plus」※1と協働で伊勢丹新宿店の一画に屋久島の魅力を発信するVR体験コーナーを設置しました。企画とクリエイティブディレクションを「Dentsu VR Plus」、コンテンツの制作とプロデュースを「アマナVRコンテンツチーム」※2が担当しました。
VRを用いた背景やこだわり、お客様の反響、ビジネスに関わるお話を、株式会社三越伊勢丹 森田浩二様、株式会社電通 荒木亮様、株式会社アマナ 中島由美様にお聞きしました。

 
※1 Dentsu VR Plusとは:2016年11月に立ち上がった、電通のグループ横断組織。さまざまな領域でVRに関わるプロジェクトを手掛けてきた専門家らが集い、総合的な活動を行う。ゲーム、エンターテインメント、不動産、旅行、医療、スポーツ、教育分野だけでなく、全ての業界を対象に「VRを活用した広告ソリューションの提供」「VRを活用した事業開発」「新しいVR関連市場の創造と発展への貢献」を進める。
 
※2 アマナVRコンテンツチームとは:VRを中心としたデジタルコンテンツの企画・制作を行う株式会社アマナのプロジェクトチーム(2015年発足)。アマナは、”ビジュアルで人の心を動かすプロフェッショナル集団”として、ビジュアルコミュニケーション事業を展開。豊富なクリエイティブリソースと高度な技術で、広告ビジュアル・TVCM・Web等を、企画から制作までワンストップで提供する。
 

新しい価値を広めるための手段として選んだものがVR

LIFE STYLE古城(以下古城):
本日はお時間頂戴しまして誠にありがとうございます。今回は三越伊勢丹様が取り組まれている、日本の良さを国内外に発信されている「JAPAN SENSES」についてお伺いできればと思います。この「JAPAN SENSES」にVRコンテンツを導入しようと思った背景をお伺いできますか?
 
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三越伊勢丹森田様(以下森田):
三越伊勢丹グループが取り組んでいる「JAPAN SENSES」は、日本の文化や技術、そういったものを国内外に広めていく重要なキャンペーンだと位置付けています。それを新しいものとして、より広くお客様に発信していく価値や、新しいコンテンツというものを考えたときに、VRを選択しました。今回の「JAPAN SENSES」は九州にクローズアップしていたので、屋久島に関連する商品と、それに付随する屋久島のVR体験をお買場(売り場)で楽しんでいただける形にしました。
 
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実際のイベント会場の様子
 
古城:
今回九州がテーマのVRコンテンツを作成するにあたって、屋久島を選ばれた理由はなんだったのでしょうか?
 
森田:
九州には数々の魅力がありますが、その中でも今回イベントスペースが子供フロアだったので、お子様に一番受け入れられやすいコンテンツはなんだろうと考えました。その時に、世界自然遺産である屋久島がぴったりだと思ったのが選んだ理由ですね。
 
古城:
ターゲット層がお子様というところにあり、その中でコンテンツ制作に屋久島を選んだんですね。そのときにのコンテンツ制作において、こだわったところや気をつけたところは何かありましたか。
 
森田:
気をつけたところとしては、お子様が興味関心をひくような臨場感があるものや、ただ風景だけ出すのではなく、滝であったり、ウィルソン株みたいな観光名所であったり、わかりやすさにこだわりながらリクエストを出しました。それ以外はもうプロフェッショナル集団にコンテンツを制作していただいてという感じですね。
 

ストーリー性をもたせたスポットの選択

古城:
それではお二人にもコンテンツ制作に関して、森田様からオーダーがきて、そこでこだわられたところや気をつけたところをお伺いできればと思います。
 
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アマナ中島様(以下中島):
今回のVRコンテンツ制作のポイントは、コンテンツ尺と内容、制作期間の制約の3点です。初めてVRを体験する方に疲労感を与えず、「VRを体験した」と実感してもらえるバランスを考えて、約2分というコンテンツ尺を提案させて頂きました。また、コンテンツの内容については、島全体が世界遺産と言われるように屋久島には有名なスポットがいくつもありますが、その全てをVRコンテンツ内で紹介するのは、コンテンツ尺を考えても得策ではありません。そこでコンテンツ内で見せるスポットをセレクトすることにしました。「ただスポットを並べるのではなく、ストーリー性があるスポットをセレクトした方が人の心に響く」という荒木さんの助言のもと、最終的に5つのスポットに絞りました。今回はコンテンツの制作期間という制約があったため、アマナイメージズで取り扱っている360度静止画素材でコンテンツを構成することを提案させて頂きました。
 
古城:
企画から実際に納品するまでの期間はどれくらいかかったのでしょうか。
 
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電通荒木様(以下荒木):
期間は実質2週間でした。「癒しの世界遺産」というコンセプトのもとストーリー性のある場所ということで、もののけ姫の舞台の雲水峡や、大阪城築城の際に伐採されたとも言われる、ハート型の切り株で有名なウィルソン株などをバランス良くちりばめました。
 
古城:
ただVRで体験するというだけではなく、展示と体験をミックスするという試みだったんですね。
 
荒木:
はい。名所各地の説明的なポップ展示と、ロケ地に関連するグッズ販売は三越伊勢丹さんに準備して頂きました。また、親子で楽しめるように、VRコンテンツを同時に配信する仕組みを用意しました。
 
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屋久島に関連するグッズの販売コーナー
 
中島:
やはり現時点でのVRはオペレーションありきというか、スタッフが一緒について説明しないとなかなか見るのも難しい部分があります。お客様(体験者)の負担とスタッフの手間を減らすために、再生操作をするタッチディスプレイを用意して複数台を同時に再生できるよう仕組みを構築しました。
 
古城:
体験されている方が二人いらっしゃって、リアルタイムにヘッドマウントディスプレイ上で流れているVRコンテンツが何かを確認できるということですか?
 
中島:
そうです。モニターには体験者の方の1人が見ている映像を表示させました。再生操作を行うスタッフの助けにもなりますし、体験コーナーの前を通りかかった方の興味を引くこともできます。またお子様も体験することが予想されましたので、対象年齢制限がある二眼のVRゴーグルだけではなく、一眼のVRゴーグルも用意しました。そうすることでお子様と親御さんが同時に体験できるような形にしました。
 
古城:
「癒しの世界遺産」というテーマにあって、親子で体験でき、体験後に親子で話してもらえる流れを大事されたのですね。さらに同時再生と、売り場の連動と、テキストにてストーリーの説明という全てが連動して出きているという。
 
荒木:
やはり観光名所は背景のストーリーテリングがないと、ただ「滝だね」で終わってしまいます。また、VRを売り場の中でどう機能させて、どう購買に着地させるか、と言った体験設計も重要ですね。
 

今までにない形での集客効果

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古城:
今回三社合同でVRコンテンツを制作されていますが、各社がどういった強みを活かして役割分担されていたのかお伺いできればと思います。
 
荒木:
企画とクリエイティブディレクションを電通が、コンテンツの制作とプロデュースをアマナさんのVRコンテンツチームが、プロジェクトは三越伊勢丹さんが指揮していました。
 
古城:
普段のイベントと今回のVRイベントで、VRコンテンツならではの反響はありましたか。
 
森田:
劇的にその期間に売り上げが向上したといった効果は見られませんでしたが、やはりアイキャッチになるのでかなり注目を集めました。週末にはすごい数の人に集まっていただきました。VRはある程度世間で注目され始めていますが、実際体験したことがある方々はまだそんなに多くはないと思います。そういう中で、親御さんがお子さんを連れて行きたいとか、男性が一人で「やってみていいですか」など、様々なお客様の集客に繋がりました。実際ある程度の物販にも繋がったのですが、「屋久島ってこんなところなんだね!」と魅力を感じてもらえたという人が多かったので、コンテンツを通じて魅力を伝えられたという手応えはあります。
 
古城:
フロアを歩いていて普段だったらそのまま流れてしまうような方が、「何かやってる」ってところで興味を持たれることが多いのかと思います。やっぱりお子さんの反応も良かったのではないですか?

 
森田:
お子様の反応はすごく良かったですね。特に男の子の場合はリピートしてやりたがって、お母さんの方がもう帰るよって言うような。そういった集客にはなりましたね。

 
古城:
売り場とも連携されていたということなのですが、コンテンツ内では屋久島を紹介されているのでアウトドア用品などを販売されたのでしょうか。

 
森田:
屋久島のネイチャーガイドの方に来ていただいていて、協力を得て運営していました。実際に屋久島に行ったときに使うものはこういうものだよねと話しながら、アウトドアグッズと、あと屋久杉を使ったアイテム等を集めていました。

 

VRをきっかけに、知らない場所を見る

古城:
期間限定でのコンテンツとして公開されていたかと思いますが、今回制作されたコンテンツを、また別の場所で二次展開することに関しては何か考えられていますか。
 
中島:
もしそういう機会があるのであれば、ぜひやりたいなというのはあります。
 
古城:
イベント外でもVRコンテンツを見たい人がいるのではないかと思います。
 
荒木:
VR体験のパッケージ化はすごく大事だと思っています。現時点ではVRは通常の撮影よりコストかかりますので、色んなところに出していきたい。一方でVRイベントはオペレーターも必要になるので、先ほど言ったような同時配信の仕組みは、親子で楽しむという一面もありますが、オペレーション効率化、という狙いもありました。その辺の効率的な体験パッケージを作って、どんどんやっていきたいですね。
 
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古城:
もしこのプロジェクトチームでもう一度VRコンテンツを制作するとしたら、どういうコンテンツを制作してみたいですか?

 
森田:
僕からするとどのように販売につなげていくかがポイントなので、今回の課題は商品との結びつきが最終的にできていなかったことです。あくまで関連したグッズというところに正直留まってしまいました。じゃあ何を用意するかというのを決めた時に、商品を起点として付随するコンテンツを決めたいです。商品の魅力を最大限広めていくことを考えた時に、どういうコンテンツができるのかを。そうするとそのコンテンツを見たお客様が集まって、商品を見て、商品を買うっていう行為になると思います。

 
荒木:
単純な物売りだけだとECに勝てないよね、といった会話を以前から森田さんとしていました。今回新宿本店の売り場を見せていただき改めて感じたのが、訪日外国人の方も非常に多く来られている‘立地の良さ’、‘お客さまの属性の良さ’、‘上質な空間’、といったリアルの価値です。そういった上質なリアルと、物販を繋げる接点としてVRのようなデジタルテックをうまく機能させられたらいいですよね。三越伊勢丹さんが元々持っているリアルの価値をいろんなツールを使って補強・増幅していく。そこが対ECとの差別化っていうことになっていくのかなと思いました。

 
古城:
リアルならではの場所と、良質な空間かなど今回は体験というところに重きを置かれていました。次回は差別化した上で、体験だけではなく、購買というゴールを見据えた動線設計が必要ということですね。
 
荒木:
そうですね、今回実施していない‘集客’も含めた購買体験の全体設計が必要ですね。

 
古城:
一回VRコンテンツを制作してしまえば、ユーザーの満足度も高く結構長く使えるコンテンツになりそうですよね。一個一個VRコンテンツを作るとなると、市場的にも需要は多くとも、まだ導入コストが高いという課題があります。例えば一個一個現地で撮影して制作するとなると、費用や制作期間が増え、なかなか企業さんも手を出せないと思います。アマナさんみたいにもともとある素材を使い、コストコンシャスに短い納期でVRコンテンツを制作できるようであればいろんな展開はできるかなと感じました。

 
中島:
そうですね、VRコンテンツを制作するとなると、普通の動画を作るよりも制作費用が高くなってしまうケースが多いです。360度のストック素材を使うメリットとしては、制作期間の削減と、予算を抑えられる点です。360度ストック素材が増えることによって、今までよりも簡単に360度コンテンツを制作することができるようになります。いままでVR制作に足踏みしていたいろんなチャネル・企業の方、個人の方がそれを使ってVRコンテンツを作り、いろんなところに置いて、例えばそれを購買促進に使えるようになれば、もっとVRが身近になるのではないかと思います。VR市場拡大の面でもストック素材の活用は大事な仕組みだと思いますので、ストックをどんどん増やしていきたいです。

 
古城:
たしかにお話聞いていて、例えばスーパーなら試飲があって、試食があって、洋服屋だったら試着があって。値段というより、どういうストーリーがあって商品が出来ているかといった部分に価値を見出して購入する方が多いですもんね。

 
中島:
「ああこの商品はこんなところで、こんなふうに作られているんだ」とVRコンテンツで体験することが出来れば、もっと商品に対してお金を出して買っていいかなと思っていただけるかなと。また百貨店のいいところはいろんなブランドがあるところですよね。例えばある品目に対する個々のブランドのこだわりやストーリーをVRで語れたら、来店されたお客様に選択指標を提供でき体験価値を高められるし、売る側にとっても他商品・ブランドとの差別化をはかれると思います。また、お客様が必ず通る導線にVRコンテンツを設置するのも面白いかなと思います。自分の目的ではないフロアにも足を運ぶようなきっかけを設計できれば新しい価値が生まれるのではないかと思います。

 
ー森田様 中島様 荒木様 貴重なお話を誠にありがとうございましたー
 

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