「VR ZONE SHINJUKUへの布石」大掛かりな実験で見えたVR共感力とは【前編】

筆者:古城 芳明

株式会社バンダイナムコエンターテインメントはアーケードゲームやコンシューマーゲームなどのゲームソフトの制作及び販売を行っている企業です。「アソビきれない毎日を。」という理念のもと、コンテンツをユーザーに求められる形で提供するIP軸戦略として家庭用・業務用ゲーム機の提供、ライブイベントの開催などの事業を行っています。
 
2017年7月14日にはVRコンテンツのエンターテインメント施設「VR ZONE SHINJUKU」がオープンしました。今回はその「VR ZONE SHINJUKU」に関わるお話や、VR事業に関するお話を、コヤ所長こと小山順一朗様(画像右)と、タミヤ室長こと田宮幸春様(画像左)に伺いました。

 
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LIFE STYLE古城(以下古城):
ではまずVR事業に取り組み始めた理由をお聞かせください。
 
バンダイナムコエンターテインメント 小山様(以下小山):
今でこそVRという言葉をよく聞くようになり、ある種ブームのようになっているんですが、我々は実はずっとVRをやっているんです。1990年頃にバーチャルという言葉が流行ったことはご存知ですか?
 
古城:
「バーチャル」ブームがあったということは存じております。
 
小山:
その流行に乗って、当時のゲーム業界はバーチャルという言葉に飛びついたわけですね。バーチャファイターやバーチャレーシングなど、バチャバチャ言っていた時代です。バーチャルという言葉をすごく広い意味で捉えて、ゲームの中のポリゴン空間で自由自在にカメラを切り替えられたり、移動できたりすることや、バーチャル空間がコンピュータの中に広がっているということも含めて、VR、バーチャルリアリティと呼んでいました。
 
弊社としては3Dレースゲームのリッジレーサーもその時はVRと呼んでいました。実はその時からVRゴーグルもありまして、イギリスから輸入するなどして、VRゴーグルをアーケードに置いたこともあります。
 
古城:
約30年前には既にゲーム業界でVRが扱われていたんですね。
 
小山:
ただそこでVRはですね、5年か6年ぐらいしたらまるで熱が冷めるように急速にブームが終わってしまったんです。技術も追いついていなかった。陳腐化してしまっていたんですね。
 
弊社はもともとアーケードゲームを事業としてずっと取り組んでいたので、その一環として本当に体験しているような感覚が味わえるゲームの開発・研究をしていました。そういった背景もあって、ドームスクリーンという、軍事産業や飛行機で使われているような本物のVRテクノロジーなどを使ってVRゲームを作り続けていました。
 
古城:
その頃から体験ができるゲームというところに注力されてらっしゃったんですね。近年さらに力を入れて取り組まれていると感じるのですが、そこには何か理由があるのでしょうか?
 
小山:
この数年でハードが大きく進歩しましたよね。OculusがFacebookから多額の投資を受けてVRを盛り上げて、そこにSONYとかも参入してきて。こうしてテクノロジーが進歩しているのだから、今まで自分たちが積み上げてきた知見を世の中に出していけると感じたことが大きな理由です。しかも我々は家庭用ではなく、アーケードという分野で全て作れるんです。家庭用だとPS4やXboxOneや高スペックなパソコンの中で表現しなければなりませんが、弊社は機械ごと作れます。テクノロジーが進歩して表現力が上がってきて、VRの可能性が広がってきたので、これで他の企業が出来ないことをやってみようよ、ということでVRに大きく舵を切りました。
 
古城:
アーケードでのVRとはどういったものでしょうか?
 
小山:
それが2016年4月から10月までお台場で期間限定でオープンした「VR ZONE」という施設ですね。当時はまだ誰もVRを知らない中、どういう風にエンターテインメントとして遊ばせようか考えました。その表現の一つとして「取り乱そう」というコンセプトを決め、体験したお客様が取り乱してしまうVRアクティビティ(コンテンツ)を作りました。
 
最初に、VRで地上200メートルの高層ビルから足を踏み出す「極限度胸試し高所恐怖SHOW」というアクティビティを作りました。そのあと女の子と一緒にロボットに乗る「アーガイルシフト」というアクティビティや、弊社がスキー体感ゲームとして開発したアルペンレーサーの技術を活用して「スキーロデオ」というアクティビティを作ったりして、いろいろとやり始めたのが2016年までの話です。
 
古城:
「VR ZONE」が登場した時は衝撃を受けました。初めてVRのエンターテインメント施設をオープンされて、どのように感じられましたか?
 
小山:
最終的には計3万7千人のお客様が来場されて、オープンしていた6ヶ月の間予約がまるまる埋まるような状態が続いたという状況だったので、VRには人を呼ぶ力があるとはっきりわかりました。しかも来場される人がガジェット好きな人だけではなく、まるで遊園地に来る感覚の人も多くいらっしゃったことが驚きでしたね。
 
古城:
「VR ZONE」は想定とは違う客層の獲得もできたということですね。VRアクティビティは皆さんにすんなり受け入れられたのでしょうか?
 
バンダイナムコエンターテインメント 田宮様(以下田宮):
そこは面白いところで、同じコンテンツを体験していただいても人によって反応の違いがありました。例えば「極限度胸試し高所恐怖SHOW」でもすごく怖がって四つん這いになる人もいれば、スタスタ渡っちゃう人もいて。それでこの差がなぜ起こるのかというところに着目しました。
 
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結局VRというのは錯覚なんですよね。本来は、人間が持っている全部のセンサーから外の環境の認識をすることで現実を理解しているんですが、VRは限られた機器を使って、現実ではない、でも本物そっくりに見せる。そこに錯覚を利用して現実っぽく見せているんですが、その反応に差が生まれるということは、個人の感覚に差があるんだなと思いました。我々はこの感覚のことを「VR共感力」と呼んでいます。
 
古城:
「VR共感力」の差に傾向はあるのでしょうか?
 
田宮:
VR共感力の差は、体験する状況やテーマについてすごく想像豊かに、もともと知っている方がよりリアルに感じられることが多くて。「極限度胸試し高所恐怖SHOW」でいうと、アクティビティが開始してすぐにギブアップされた方にお話を聞くと、実は鳶職とか空挺部隊とか高いところの職業の方が散見されたり。むしろ専門の方が、コンテンツをリアルに感じたり、怖がったりするんだなと思いました。
 
古城:
なるほど、高いところの恐怖を理解している人の方がVRでもリアルに感じてしまう。
 
田宮:
あとは知識や妄想で補うパターンもあります。ガンダムについてより詳しい方が、ガンダムのVRで興奮してくれます。監修で版元様が体験された時に、版元様が一番驚いていただけるんですよ。皆さん「あっ、ついに本物になった」って本当に喜んでいただいて、非常にVR共感力が高まっているなと。
 
逆にとてももったいないのが、これの仕組みはどうなっているんだろうという解析心で体験してしまって、あまりのめり込めないまま終わってしまうパターンですね。体験前に「今からこういう世界に入るんだ」と一回信じて楽しむ気持ちで体験すると、VR共感力はだいぶ高まりますね。
 
小山:
他にも、ガンダムのことを詳しくない女子高生がガンダムのVRを体験する時に、ガンダムが動き出して敵のロボットがマシンガンを撃ってきたりぶつかってきたりしたら死んじゃうよ、とか伝えてから体験してもらうんですよ。そうすると知識のない女子高生でも大騒ぎしながら楽しんでもらえます。
 
古城:
体験する前にアクティビティの内容を伝えることによって、VR共感力を高められるということですか。
 
小山:
そうですね。テーマを選ぶ時に、皆さんがご存知のものを選択する方がより正しいアプローチだとは思うんですけれど、そこの知識が足りない方でも、内容のネタバレをしてあげて何が起こるんだという想像を先にしていただくと、わりとリアリティを感じていただきやすくなりますね。
 
一言で表すと「期待通り、けど想像以上」という風に僕は言ってますね。
 
「VR ZONE」がオープンする前にテレビの取材がありまして、お台場にいる人を目隠しして連れてきて「極限度胸試し高所恐怖SHOW」を体験してもらったことがあったんですね。目をつむったままVRゴーグルをかけてもらい、じゃあ目を開けて体験してくださいなんて言っても、みんなスタスタ歩いちゃうんです。おかしいなと思って試しにコンテンツの内容を知っているディレクターの方にやってもらったら「うおーっ!」って。
 
いきなり未知のことをさせても、多分何だかわからないまま終わってしまうんですね。これからこういうことが起こるよって伝えて、事前にVR共感力の準備をしてあげた方が実際に体験するときに存分に恐怖を味わえるってことですね。
 
古城:
私も体験させていただいたんですが、スタッフの方が事前に「こういうコンテンツですよ」という説明を行われるのはそういう意図があったんですね。
「VR ZONE」ではどういったターゲットを想定されていて、実際にはどういう人から反響があったかについてお伺いできますか?
 
小山:
オープンした当初はまだPS VRも発売されておらず、Oculus Riftの量産型もなく、VIVEも量産型試作を貸してもらうといった、まだまだVRというものへの認知が曖昧な状況でした。ですので予想していたターゲットとしてはVRのファンの人たちがまずは来るだろうと。そういうガジェット好きな人たち、または新しいゲームハードに興味がある人たちが来てくれて、そういう人たちの面白い場所になるんだろうなと思っていたんです。
 
いざオープンしてみると想定とはだいぶ違い、先ほど言ったように遊園地感覚で来られる方が数多くいました。
 
田宮:
「VR ZONE」をオープンする前に「極限度胸試し高所恐怖SHOW」のPVを作っていました。10代から、上は70代くらいの男女までに「極限度胸試し高所恐怖SHOW」を体験してもらっているものです。全部で60人くらいですかね。
 
小山:
様々な人たちに体験してもらったところ、例えば60代70代の人とかは人生で一番怖い思いをしたと仰ってくださったり。このPVを見た人たちが、同じような年代の人たちがこんなに驚いているところを見たら足を運んでくれるんじゃないかなと思っていました。
 
田宮:
最初に小山が申し上げた、ガジェット好きな人たちは間違いなく来るだろうけど、そこからさらにターゲットを広げていくことは全く誰もやったことがないので、未知の状態ではありましたね。
 
小山:
非常に面白かったのは、やはりオープンしてしばらくの間は20代と30代が多くて、男女比率も男性が8割、女性2割くらいだったんですね。やっぱり新しい情報に触れて、テーマパーク的なところのものを含めて来てくれるのは20代30代なんだな、40代50代の方は来ないなと思っていたんです。それがですね、1980年代に放送されたアニメ「ボトムズ」のVRを6月末頃にリリースしたところ、こうなりました。
 
ボトムズ投入前後の年齢構成比
 
田宮:
オープン当初は20代前半の来場者数がピークみたいな状況だったんですが、ボトムズをやリリースしたら40代のところが急に伸びてきて。
 
古城:
そうですね。20代を超えていますね。
 
小山:
それで40代50代の来場者にお話を聞いてみたところ、VRというものを3Dテレビとかと勘違いしていらっしゃる方が多かったんです。「VR ZONE」に来ると「こんな風になるんだ!」というように驚かれて。恐らく40代50代の方たちは、バーチャルリアリティっていう言葉と、グラストロンとか、3Dテレビとかと混同している方が多くて、実際に体験するまでは興味関心というより「もう知ってるよ、それのすごいやつでしょ」と思っていたので体験しに行こうとはならなかったみたいですね。
 
それがボトムズをアクティビティにして、ファンの人達へ実際にロボットに乗れますよと言うことで、VRであることは関係なく体験しに来て驚くという流れができていました。そういうきっかけがないと、この年代の人はVRを新鮮に捉えないんだなというのはその時に気付きました。
 
古城:
そうですね、やはり知っている作品だと入りやすいというのは確かにあります。
 
小山:
結局そうなんです。お台場でわかったことは、「VRの面白い施設」だけだとやっぱり若い方を中心にヒットせざるを得ないんです。そこにすごく大きなファンの塊を持った作品とコラボの形にすると、もともとファンの人たちにしっかり響いて、結果として年齢層の間の谷が埋まっていくんです。要はVRだけでは届かなかった人たちに届くということがありました。
 
そのノウハウを活かして、2017年7月に新宿にオープンした「VR ZONE SHINJUKU」ではいろんなアニメの世界観を体感できるアクティビティをそろえました。
 
 
 
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「VR ZONE SHINJUKUへの布石」大掛かりな実験で見えたVR共感力とは【後編】
 

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