【STORY × ハシラス】「異色の経歴が培ったノウハウで、体感と連動したVRを提供する」

筆者: 編集部

株式会社ハシラスは「VRアトラクション」の制作に特化したVRコンテンツ制作会社です。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を利用し、テクノロジーと身体運動をミックスした特殊な技術を用いたコンテンツを次々に展開しています。今回は、VR事業に関する展望をハシラス代表取締役社長の安藤晃弘様に伺ってきました。

ーーまずは御社の事業内容についてお聞かせください。

ハシラス安藤様(以下安藤):
弊社はもともと、別々の仕事をしているメンバーが趣味としてVRのコンテンツを作っていたところから発足しました。ハシラスという会社名も、その時に作った「Hashilus」というVRコンテンツが由来になっています。初めてコンテンツを制作した時に利用したHMDは、ポジショントラッキングもなく周りを見回すくらいしかできませんでしたが、体感と連動させることでもっと面白いものを作れることに気が付きました。そうすることで、体験している人はもちろん、見ている人まで楽しめるものを作れる可能性があるのではないかと。

ーー会社としてのスタートではなかったのですね。法人化されたきっかけはなんだったのでしょうか?

安藤:
そうした体感を設計したコンテンツを出してすぐにハウステンボスに納入させてもらえることになり、他にもサンシャイン60展望台に展示する大きなコンテンツも手掛けました。そうすると流石に個人で受けていくことは難しくなってきたため、法人化しました。

法人化以降は、チームとしてコンテンツ制作に注力できるようになったため、それまでとはできることの幅が段違いに広がっています。

ーー今まで何社のクライアント様に導入されてきたのでしょうか?

安藤:
法人化する前からカウントすると、15社から20社の間くらいだと思います。その中でも、エンタメ施設などのロケーションベースのサービスを展開されているクライアントが比較的多いです。エンタメ施設に新しいVRコンテンツを導入したというニュースはインパクトがあるので、弊社の事例としてもよく取り上げられます。

しかし、実は弊社が得意としているものは特注案件に対して確実に響く提案を返すということです。弊社には、ソフトウェアを実装できるエンジニアがいることはもちろん、人が乗って動くような大きなハードウェアを作れるエンジニアもいます。そしてそれら全体を組み合わせて何ができるのかという提案ができるディレクターがいることが、弊社を構成する大きな3要素です。要するに、面白い提案が出せて、それを実現できる部隊がいるというわけです。

ーークライアントに合わせた提案をその都度されているということでしょうか?

安藤:
そうですね。パッケージ化されたものを売るモデルというよりは、そういう要望でしたらこういうのがいいですよ、という風に提案しています。あとは、売れる、売れないにかかわらず、自主企画的に新しい提案をどんどん出していくように動いています。

ーー自主企画というのは、どういったものでしょうか?

安藤:
今のVR業界が抱えているいくつかの問題点を解決するための企画です。あるいは、業界的にはこちらの方が主流でも、こう変えたほうがもっと没入できてより楽しめるんじゃないだろうかといった観点で提案していくものが多いです。既存課題の解決ということですね。

ーーなるほど。具体的にどのような課題に取り組んでらっしゃいますか?

安藤:
1つはライド系のVRとフリーロームのVRについて取り組んでいます。VRの初期はライド系のVRが注目されていました。1個の機体に乗り込み、揺れやモーションとともに視界が動くことで、別世界に入ってそういった乗り物に乗っている感覚が味わえるものですね。そして自分で歩き回ることのできるようなフリーロームのVRも現れて、自分がその場にいる感覚をより強く味わえるようになりました。この2つは明らかに得手、不得手が違っています。フリーロームのものは非常に強く没入できる代わりに、移動できる範囲が限られていてダイナミックにコンテンツが転換しないという欠点があり、一方でライド系は短い尺で景色がどんどん変わっていく見せ方ができます。弊社はその両方のいいとこ取りができないかなと考えました。

そのための1つのアイデアとして我々が制作したものは、魔法のじゅうたん型のライドVRです。じゅうたんの上はフリーローム的に2人で歩き回ることができ、コンテンツ内ではじゅうたんで飛んでいくので展開スピードを非常に早くすることに成功しました。

また、「ゴールドラッシュVR」というコンテンツでは、大きく区切った部屋の中に人を入れて、その中に4人乗りのトロッコ型ライドを作りました。バックパック型のPCを背負ってフリーロームで体験しつつ、トロッコに乗って次の場所にどんどん移動していけるものです。

こういった形をとることで、フリーロームとしての没入感がありながらも、ライドの展開の早さも味わえます。つまり5メートル四方の空間でも、もっと超大な場所の体験をしたような感覚が得られるのです。

ーーVRの空間に対する挑戦をされているのですね。

安藤:
加えて重要なところは認知ですね。そういう意味でいうと私自身がVR界きっての変わった前歴を持っていまして、1年半ぐらい前までマジシャン、古典奇術師をやっていました。その頃に培った部分で、内観が他の人より少し優れています。自分自身に沸き起こった感情にぴりっと気付きやすく、これは何が面白いというのを見付けやすいんです。VRならではの要素に早い段階で気付き、その面白さを脚色して人に伝えることが得意です。人の視覚をだまして楽しませるプロフェッショナルとしてずっとやっていたので、それが今ここに活きていると感じますね。

ーーなるほど。マジックの経験を活かしてコンテンツを制作されているのですね。

安藤:
たくさん活かしてますね。要するに、人が知覚できるラインと知覚できないラインとを見定めているんです。ここまでは知覚できないから端折っちゃおうとか、ここからは知覚できるようにあえてギャップを付けようとかですね。どこまでやれば人は没入を保ったまま楽しめるのかという部分に活かしています。

私はもともとコンテンツプロバイダーとして活動しており、起承転結や序破急の付け方などが直感的、感覚的に分かります。加えて、舞台をやっていたので施工や図面にも強いんです。これら全部を社内でできるのはこの経歴のおかげですね。

ーー確かに異色の経歴です。そうしたノウハウを用いて課題解決にフォーカスした制作をされているのですね。

安藤:
もちろん、こうして問題解決のために制作したコンテンツは販売することを見据えています。要は、なぜVRが売れないのか、もっと利益化できないのか、という理由は何かの問題があるからなので、それを解決することが売れるものを作るということにつながっていきます。

私は今のVRのフェーズをR&D(研究開発)のフェーズで、最適解がまだまだ見えない暗中模索の状態だと思っています。そのため基礎技術や研究開発が必要だと感じていますが、大手企業が資本を投下して研究するのとは訳が違いますから、我々は実地でコンテンツを納品しつつ、その中から得られる知見と短いスパンでのフィードバックをしていくことが大事だと思っています。

ーークライアントに対して制作できるものを説明する際は過去の実績などをベースにされるのでしょうか?

安藤:
それはもちろんありますが、どちらかというと我々はプロトタイプをすぐに作ってしまいます。想像してもらうことが難しい業界ですので、まず我々はそもそものプランよりも多くの選択肢を提示します。いろいろな選択肢がある中、お客様のご要望に対してそれなりに動くものを作って、それを見せながら提案します。場合によってはいくつか作ったものからお客様に選んでいただくこともあります。そうして納得いただいた上で進めています。

ーーなるほど、すごく面白い提案の切り口だと思います。今後チャレンジしてみたい領域はありますか?

安藤:
産業や実用の方向に我々のVRの技術を役立てていきたいです。我々が制作している、全身の体感を連動させるコンテンツは、本来どこのジャンルにも提供できます。なぜ大きく展開していないかというと、現実でやったほうがコストバランス的に良いからです。例えば乗用車のVRシミュレーターを何千万円もかけて作るよりは、実在の車を買った方が安いのでVRでやる意味はありません。

そのため、非常に高価な消耗品や実機を触ることが難しい機械など、さまざまな要因で現実よりもVRの方がコストバランスが良いものに関しては、どんどん乗り換えていきたいなと思っています。

ーー非常に大きな目標があることがわかりました。産業や実用以外でもチャレンジしてみたい業界はございますか?

安藤:
今後のお話をすると、大きなIP案件を今年から来年にかけてどんどん出していくつもりです。現実では不可能なもの、フィクションの世界に入れるという体験は最高に魅力的なものです。この度ソニー・ミュージックエンターテインメントさんと業務資本提携を結ばせていただいて、大型のIPと弊社の体感設計を結びつけてバーチャル体験を提供していくことが決まっています。

ーーそれは楽しみですね!IP案件を展開していくならば海外も視野に入れてらっしゃるのでしょうか?

安藤:
もちろんです。世界のVRの市場を眺めていると、中国は非常に大きく盛り上がっている場所であり、韓国などもロケーションベースのVRがどんどん立ち上がっていてすごい勢いです。しかしコンテンツプロバイドの観点からいうと、日本がものすごく強いんです。そのため日本で面白いコンテンツを出して、リードする立場として展開していくということは、そのまま国外に対するリーチにもなっているんです。

ーー今のVR市場に感じる課題は何かございますか?

安藤:
VRを体験したことのない方がまだまだいらっしゃるなと感じますね。最近、VRのご相談を多く持ちかけられるようになったのですが、VRは決して何でもできるわけではありません。かなりはっきりと得手、不得手があって、皆が思っているほど万能のものではないんです。イメージ上のVRとのギャップを感じ取るためにも、まずVRを体験してみて欲しいですね。”百見は一体験に如かず”だと思いますので。

ーーさまざまな会社様のコンテンツを作られてきた経験から、今後VRはどうなっていくと思われますか?

安藤:
今までの業界には「VRバブル」のような側面があると思っていて、実はVRではない方がいいものもVRで作って話題を得るようなスタイルが結構あったと感じます。見るだけのVR、インスタントな形で眺めまわすようなものは今後縮小していくのではないかと考えています。

逆にどうやってVRの持ち味を差別化していくかというと、やはり自分がそこに働きかけて反応が戻ってくるという部分をベースとして置くことです。それがすなわちプレゼンスに貢献している部分でもあり、VR市場の鍵になってくると思います。

ー安藤様、貴重なお話を誠にありがとうございましたー

株式会社ハシラス
〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-7-1

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