【STORY × シーピックスジャパン】「映像制作のプロフェッショナルとして、VRでしか伝えられない感動を届ける」

筆者: 編集部

シーピックスジャパン株式会社は、世界最大の海洋写真専門のストックフォトエージェンシーです。水中写真の撮影に加え、現在は360度のVR映像の撮影、制作をおこなっています。今回はシーピックスジャパン社の代表取締役である広瀬睦様に、これまで手がけられた映像や課題、今後の展望についてお話を伺ってきました。

ーーまず御社の事業内容についてお聞かせいただけますか?

シーピックスジャパン広瀬様(以下広瀬):
弊社はもともと水中生物、野生動物を被写体とした水中写真専門のフォトライブラリーでした。アメリカのSeaPics.com社と提携しており、私が撮影した水中生物や野生動物の写真を講談社さんの魚図鑑や水族館さんに貸し出す仕事をしていました。要するにフォトエージェンシーです。

2013年に電塾という勉強会で谷口とものりさんに360度撮影の基本を教わり、水中と陸上の360度映像を撮影するようになりました。そして去年、イギリスのBlend Mediaという360度ビデオクリエーターのグローバルネットワークを運営する会社と契約を結びました。また、今年2017年10月には沖縄での撮影案件を受注し、VR制作企業のLIFE STYLEと共同で撮影をおこないました。

現在手がけている仕事の9割以上は陸でのVR映像の撮影です。いろいろな制作会社さんやエージェンシーさんからのご依頼を受け、撮影をしています。以前おこなっていた素材の貸し出しに関しては今のところスチールだけですが、時にはYouTube経由でご依頼がきて、VRに関しての貸し出しをすることもあります。

弊社は会社といっても従業員は私一人なので、撮影部のような感覚でいます。撮影の際は、サポートをお願いして多いときは4人くらいで動いています。立体音響の方やスティッチのカメラサポートの方、あとは編集の方に協力していただき、VR映像の撮影をしています。案件ごとに私から依頼をしてチームを組んでいます。

ペースとしては多くて月に3プロジェクトという状態です。撮影後におこなうスティッチやポストプロダクションなどの作業を考えると、それ以上増やすのは厳しいと思っています。

ーー電塾に参加されていた方々にはスチールのカメラマンの方が多かったのですか?

広瀬:
そうですね。みなさんスチールのカメラマンでした。染瀬直人さんも参加されていましたよ。

普段、自分が水中撮影で使用するGoProをうまく使えば360度の動画が撮影できるのではないかと考え、撮影方法などを学んで360度映像の世界に飛び込みました。1年半くらいは谷口さんのアシスタントとして撮影に参加することが多かったです。

2年前にはKDDIさんのau「warp cube」というイベントで使用する映像の撮影もおこないました。「warp cube」は、巨大キューブの内部にあるLEDディスプレイに囲まれた空間で、万里の長城やオーストラリア、アイスランドを飛びながら旅をするような体験ができるものでした。私はその映像の中で中国とオーストラリアを担当しました。

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※スマートフォンでご覧になる場合は、YouTubeアプリで再生すると360度動画がお楽しみいただけます

また、作品撮りとして行った沖縄での水中の360度映像をYouTubeにアップし、その動画の再生回数が20万回ほどになり、海外から直接オファーがくるようになりました。去年はドバイで撮影したり、イギリスのスカイスキャナーというアプリケーションの会社さんの依頼で東京と京都の桜を撮影しました。

ーー海外での撮影は頻繁にされていますか?

広瀬:
仕事で海外に行くのは年に2回ほどです。前述のau「warp cube」では、上海夜景空撮VR、万里の長城空撮VR、オーストラリア水中&空撮VRをおこないました。オーストラリアは海外のドローンパイロットを受け入れないので、現地でパイロットを雇い一からノウハウを伝えました。その他機材の調整も必要になりますから、時間も手間もかかりました。

慣れない地での撮影にはトラブルがつきものです。以前ペルシャ湾で撮影をおこなったとき、現地の気温が非常に高く10台回していたGoProが開始10分で4台動かなくなってしまいました。また、オーストラリアの撮影では撮影期間中、雪山でキャンプをして過ごすなど、過酷な案件が多くあります。しかし、私としては海外での撮影にどんどん挑戦していきたいと思っています。

ーー映像制作の中でこだわられてるポイントを教えていただけますか?

広瀬:
自分勝手な色作りをせず、きちんと意見交換をして擦りあわせたイメージに近づけるようにしています。2Dのシネマカメラで撮影をしながら同時にVR映像も撮影する案件が多くあるのですが、その場合それぞれの映像の色を合わせなければなりません。そのため制作に関わる人同士で、カラーグレーディングについての意見交換を重視しています。

特に私は、もとはスチールのカメラマンですから、ずっと映像制作をやっていた人と比べるとやはり経験の差があります。プロの映像制作の人たちがVRをやるようになったら、私のようなカメラマンは仕事がなくなってしまうのではないかと不安もあります。だから色に関しては今努力しなければならないと思います。

日本ではまだありませんが、ロンドンやロサンゼルスのプロの方向けの機材レンタル店では、α4台組みやRED6台組みといったVR機材のレンタルが始まっています。要するに、映像制作を続けていた人たちにとってもVR映像に取り組みやすい環境になってきているのです。なので、危機感を持って映像制作と向き合っていかなければならないと考えています。

ーーこれまで撮影された中で最も成功を感じた360度映像はなんですか?

広瀬:
2013年に撮影したウミガメの映像です。

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※スマートフォンでご覧になる場合は、YouTubeアプリで再生すると360度動画がお楽しみいただけます

当時は360度の映像をYouTubeで公開することができず、撮影だけでなく公開作業にも手がかかりました。しかし、人を楽しませることのできるものを発信していかなければならないと考え、自費で撮影をおこないました。

先ほどお話しした、YouTubeで20万回再生された動画というのがこちらです。一度YouTubeの仕様で360度再生ができなくなってしまったので、アップし直しました。

案件で撮影したものでは、「VR蓮舫」ニコニコ超会議2017の参加型コンテンツが最も話題になりました。心拍数センサーを指に装着した状態で蓮舫さんに追及されるという、ピラミッドフィルム クアドラさんのアイデアはすごいなと思いました。カメラはGoProにインタニヤレンズを付けた3台組、4K60Pです。

また、ニューヨークのタイムズスクエアで12K撮影したこちらも面白いと思います。YouTube公開は8Kです。

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※スマートフォンでご覧になる場合は、YouTubeアプリで再生すると360度動画がお楽しみいただけます

ーー受託案件で使用するカメラはGoProがメインですか?

広瀬:
GoProを使うことが多いですが、弊社にはさまざまな種類のカメラがあるので、案件ごとに適したカメラを使うようにしています。撮影をしていて思うのは、スペックがすべてではないということです。撮影のあとの編集作業にスムーズに移ることのできるカメラが望ましいですね。編集ができなければ先ほどお話ししたカレーグレーディングもできませんし、クライアントの方にサンプルをお見せしても調整を施していないものは選んでもらえません。

ーーVRが広まるにつれ、案件への要望に変化はありましたか?

広瀬:
現在のクライアントさんは空間音声、立体音響、バイノーラルを使ったコンテンツに興味を持たれていることが多いです。あとは3Dの相談を受けて実際撮影することもあります。

VRが登場した初期には、360度すべてが映った映像で十分喜んでもらえたのですが、今は単なる体験では満足してもらえなくなっています。久光製薬さんが今年2017年の5月に開催したサロンパスのイベントでVR体験用の映像を撮影しましたが、体験者に映像を見せながらミントの香りがする風を顔にあてて没入感を高めていました。映像だけでなく、プラスアルファでなにかやらなければ、体験者に面白いと感じてもらえないのではないでしょうか。

また、VR体験をしている方は思ったほど映像を見回してくれません。絵力がなければ、VR体験者の興味を引くことができないのです。なんでもVRにすればいいという時代は終わりつつあって、これからは本当にVRに合うコンテンツを作っていかなければならないと思います。

ーー業界全体の課題ですね。

広瀬:
そうですね。加えて、最近は映像制作者が「私はVRの知識がない」と言えない空気になってきているので、長所短所を知らないままこだわりを持って撮影に臨んでいる人を多く見かけます。そのこだわりがVR酔いにつながってしまったり、映像の魅力を半減させてしまう要因になることもあるので、事前の打ち合わせはとても大事だとよく感じています。

また、スティッチ作業が不要なカメラに頼りすぎないようにしたいです。今後はそういったカメラも多く出てくるとは思いますが、そうした画もやはり完璧ではありません。しかし、クライアントの方に見せてあとから「ここを直してほしい」と言われても、そうしたカメラで撮影、スティッチしたデータに手を加えることはできません。

予算によってはスティッチの不要なカメラを使用するのも一つの手だと思いますが、私はカメラマンとしてのこだわりを持ち、ハイクオリティな映像を提供したいと考えています。

ーー今後、VRはどのようになっていくと思われますか?

広瀬:
当然広がっていくと思います。ただ、カメラマンはある程度淘汰されていくと思います。仲間同士で声をかけ合って一緒に撮影に行って、仲間のノウハウを見て学び、次からは自分でやるような会社さんは結構あります。外部の人は、そういった会社さんを絶えず凌駕するような技術や知識、画を残せるようでないと、仕事が入らなくなります。そういった意味で淘汰されていくと思います。今後はいいものを見抜くことができる人が増えていくでしょうから。

ただ、日本ではVR業界はあまり盛り上がっておらず、読めない部分もありますね。例えばアメリカでは女性のYouTuberにGear 360を渡し、彼女にVRをアピールしてもらうという試みをしていました。個人のアイディアには限界がありますから、面白いものを作りたいのであれば、まずはいろいろな人に使ってもらうことが必要だと思います。

VRでの体験を提供するのであれば、普段見ることのできない、自分が行けないような場所を選ぶのがいいと思います。老人ホームにいる人たちに、世界のいろいろな景色を見せてあげたいという男性が、クラウドファンディングで資金を集めて実現させていましたね。そういう使い方が増えてほしい。そしてHMD(ヘッドマウントディスプレイ)がもっと小さくなれば、VRはどんどん広がっていくのではないでしょうか。

ーーVRが広がるときに向け、御社はどのような取り組みをしていきたいとお考えですか?

広瀬:
ここ3、4年で機材の進化と参入業者の多さを感じています。例えばゲーム業界の会社さんが多額の予算を投入してコンテンツを作ったとき、弊社がどうやって生き残るか、勝ち残るかというとやはりプロのカメラマンとしての経験と、ポストプロダクションへの親和性を武器に広域の映像作りのプロフェッショナルとして生き残っていきたいと思っています。

簡単なところでいうと、底を消すことやスタビライズなど、今までポストプロダクションをおこなう会社さんにお願いしていた部分もある程度知っておくべきだと思います。完璧ではなくとも全部を知っておき、映像制作のことであれば自分がおこなう作業でなくてもクライアントの方にアドバイスができるようにしたいです。

映像制作業界を見てみると、VRはまだ色ものとして見られていると思います。しかし、私としては確実にVR映像は生き残っていくと思います。なぜならネット上など発表できる場がきちんとあるからです。昔の3Dは、その映像を見るために3Dテレビを購入する必要がありました。撮影もプロがやらなければならなかったし、見るデバイスも限られていました。

それと比べたら、むしろ今のテレビより、断然メディアは多い訳ですから、VR自体は生き残っていくのではないかと思います。一方で日本では映像制作、2Dなどの映像制作の人が追いつけていない部分も見受けられます。

ーーそういったポイントを押さえつつ、水中の映像にも力を入れていかれるのですか?

広瀬:
そうですね。時間的に自分で撮影できるチャンスがあれば、もっと水中の映像を撮りたいと思っています。やはり、水中は360度で見せる価値があると思いますから。これまで撮影した映像よりも綺麗に撮りたいですね。海外ではホホジロザメの人気が高いので、その撮影もしてみたいです。

海でのVR撮影をしているカメラマンは、おそらく日本でも数人しかいません。相手が自然や野生生物である以上、その撮影は容易ではありません。

海中での撮影は非常に大変です。バッテリーもチェックできませんし、水中では光の屈折率が違うため実物の4/3倍に見えるのです。そのため、カメラを複数個組んだ状態で水中を撮影しても、カメラの間に黒いラインが出てしまいます。水中での撮影には、そういった画角の違いも念頭におかなければなりません。

クライアントの方のご要望に答えつつ、自分が360度映像の可能性を感じた水中の撮影も継続して、VRの映像でしか見せることのできない景色、VRでしか実現できない世界を提供していきたいですね。

ー広瀬様、貴重なお話を誠にありがとうございましたー

シーピックスジャパン株式会社
〒110-0005 東京都台東区上野3丁目3番8号
ワイゼムビル3階

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