【STORY × Voxcell Design】「自由な発想で、VRを使った”感動”と”便利”を届ける」

筆者: 編集部

合資会社VoxcellDesignは、2003年に設立された各種3次元CGコンテンツの制作をおこなう会社です。VR分野で使用されるリアルタイムレンダリング(すぐにCGを生成する)技術を強みとし、2010年からはその技術を応用した独自のアプリケーションを開発、公開しています。
 
今回は、VoxcellDesign社がこれまでの開発してきたアプリケーションやそれに関する取り組み、今後の展望やVRに対する独自の解釈を、VoxcellDesign社代表の脇塚啓様に伺ってきました。

──まず御社の事業内容についてお聞かせいただけますか?

VoxcellDesign脇塚様(以下脇塚):
私は約5年間、三菱プレシジョンという会社で働いていました。三菱プレシジョン社では、VR技術を活用した訓練用のシミュレーターを制作する部署に所属していました。要するに、パイロットや電車の運転手、自動車の運転手のシミュレーターなどの映像を制作する部門です。具体的には、リアルタイムのCGで周囲の景色を作っていました。

その後、これまで携わってきたリアルタイムCGを、シミュレーターやゲーム以外に使い、なおかつ人の役に立つようなものを開発したいと考え、独立して2003年にVoxcellDesignを設立しました。以来私一人でアプリケーションの開発、公開に取り組んでいます。

設立当初は映像データの制作をおこなっていましたが、ある時自社のオリジナルアプリケーションを開発しようと考え、開発に必要なUnityやプログラム技術を学び、「NailCanvas」や「日本列島VR」、「SpatialGate」というアプリケーションを開発しました。これらのアプリケーションはTwitterなどで開発過程を公開しています。

現在は三菱プレシジョン社や他の会社からの受託案件に取り組みながら、リアルタイムCGのコアな活用法について、さまざまな方向性で可能性を模索しています。受託する案件の内容はやはりシミュレーターが多く、他にはCGのアニメーションを制作する仕事も時々引き受けています。私一人の会社なので、大きなプロジェクトに関しては外部の方と進めることもありますが、弊社オリジナルのアプリケーションの開発に関してはすべて私一人で仕事の空き時間におこなっています。

──シミュレーター制作では実写がベースですか?

脇塚:
そうですね。シミュレーター制作の場合は道路や路線、駅、空港など実際にある景色をCGで再現することが多いです。実際にあるものを実物と同じように再現するのです。そのため、シミュレーター制作をおこなうときはまず取材に行って、写真やビデオを撮影し、それらと図面をもとにしてCGで作っていきます。

三菱プレシジョン社で手がけていたシミュレーターは大型で、対個人向けの製品ではなく、防衛省や鉄道会社、航空会社といったお客様に納めていました。三菱プレシジョン社がシミュレーターシステム全体を製造する中で、私は映像を制作する部分を担当していました。

VRシミュレーターとそうでないシミュレーターに制作方法の違いはありません。シミュレーターでは、VR体験を目的とした映像も平面に映し出す映像も内部的には3次元で構築されたシーンとして制作しています。その映像をHMDで見るのか、ディスプレイで見るのかが違うだけなので、制作方法は同じです。

──初めて開発されたオリジナルアプリケーションを教えていただけますか?

脇塚:
「NailCanvas」はネイルアートのシミュレーターアプリケーションです。爪をリアルタイムCGで再現し、自分で好きな色を塗ったり、平面で付けかえたものをリアルな質感の完全3Dで確認することができます。最初はQuest3Dという開発ツールを学び、2009年に「NailCanvas」の開発を始め、それから1年ほどでWindows PCのフリーソフトとしてリリースしました。

その後2011 年ごろからUnity を勉強して2012 年にiOS 版のNailCanvas をリリース、iOSへ移植し、2015年にiOSとAndroidで「NailCanvas 2」をリリースしました。現在までに約17万回ダウンロードされています。国内だけでなく、海外のユーザーも多くいらっしゃいます。インターフェースが英語にも対応していて、割合としては全体の60%が日本で、30%がアメリカやヨーロッパ、最近では中国のユーザーによるダウンロードが増えています。

「NailCanvas」では、ユーザーが自分でエディットして楽しむことができます。また、ネイルに使われているストーンの質感やラメのきらめき、カラーなどユーザーのイメージを視覚化し、それを保存、シェアすることができます。シェアする際は、画像ではなく3Dデータが送られるので、受け取った人はそのイメージを自分の好みにあわせてアレンジを加えることができます。

──シミュレーターの制作をされていた脇塚様が「ネイルのアプリケーションを作ろう」と思われたきっかけはなんですか?

脇塚:
「きれいな映像の制作技術」「リアルな質感の再現技術」、私のこの強みを活かせるアプリケーションを考える中でネイルのアプリケーションをひらめきました。エンターテインメントやゲームではなく、生活上でなにか役立つアプリケーションを開発したいとも思いました。既存のリアルできれいなCGを使ったコンテンツや、ウォークスルー機能のあるコンテンツを超え、まだ誰も挑戦していない分野で活用できるアプリケーションを目指しました。

開発当時はiPhoneの性能も低く、パソコンの精度もあまり高くなかったので、「NailCanvas」はグラフィックボードの搭載されたパソコンでしか動きませんでした。しかし、「ネイルをやってる人、ネイルが好きな人」という層と、「グラフィックボードが搭載されたパソコンを持ってる人」の層が私の中で結びつきませんでした。

その後、iPhoneの性能が格段に上がったこともあって、世界中の人が気軽に使用できるよう「NailCanvas」をiOSに対応したアプリケーションにしました。オリジナルアプリケーションを制作するための第一歩として、とてもいい経験ができたと思っています。

──「NailCanvas」の次に開発されたのが「日本列島VR」ですか?

脇塚:
はい。「日本列島VR」は日本全国をシームレスに移動することができるVRコンテンツです。フライトシミュレーターでは衛星写真を使用して立体的な地形を再現する方法が主流です。しかし私は、実際の地形データや国土地理院のデータ、数値データをもとにして、色合いを調整しながら衛星写真のような仕上がりの素材を自分で作りました。

日本全国分の素材ですから、使用するデータ量は膨大です。そのデータがワンコンテンツの中におさまるか、といった点で試行錯誤を重ねました。制作にあたっていた期間は、途中経過をTwitterで紹介していました。現在も一人で少しずつ改良を加えたりと、よりよいコンテンツにするための試行錯誤を続けています。

──具体的にどのようなシーンでの活用を想定して開発されましたか?

脇塚:
「日本列島VR」の地形素材はいろいろな場面で応用できるのではないでしょうか。特に観光、防災、教育といった分野では、お役に立てるのではないかと思っています。

「日本列島VR」はなにか乗り物に乗って飛行するのではなく、タケコプターで飛んだり、夢の中で生身の体で飛行するといった感覚を体験してもらえるように制作しています。私自身、自由に空を飛びたいという思いを持っていましたので。しかし、使い方やテイストを変えれば、全く別のコンテンツになると思います。

現在、「日本列島VR」はクローズドテストの段階で、130~140人の方々に使っていただいています。他にもいろいろな展示会に展示していますが、ゆくゆくは一般リリースをしたいと思っているので、その実現に向けて行動していきたいと思います。

──ありがとうございます。次に「SpatialGate」についても詳しく教えていただけますか?

脇塚:
「SpatialGate」は、用意されている全天球写真やムービーに現れるワープゲートを通じて、ゲートの向こう側とこちら側を好きなように移動できるアプリケーションです。こちらの「SpatialGate」の特徴は、全天球の素材と立体の素材のどちらにも対応していることです。

全天球写真といえば、少し前までは撮影のあとにステッチで写真を繋げなければならないなど、手間のかかる写真でした。しかし、最近ではRICOH社の「THETA」のようにシャッターボタンを押すだけで全天球写真が撮影できます。このように簡単に入手できるようになった素材を使ったコンテンツを開発したいと考えたのが開発を始めたきっかけです。

「SpatialGate」の世界では、各ムービー素材はムービー素材として再生されますが、ワープゲートの開閉や体験者の移動に関しては、体験者自身の時間軸で動いています。今後、私としては立体の素材をメインに使っていきたいと考えています。立体化する作業は非常に手間がかかりますが、いろいろな魅力的な場所や世界遺産などを立体化し、コンテンツの中に加えたいと思っています。

──「SpatialGate」の開発でこだわった点を教えていただけますか?

脇塚:
シーンのきりかわり方と、ワープゲートの表現にこだわりました。これまでの全天球写真のコンテンツでは一瞬で画面がきりかわったり、ホワイトアウトして次のシーンに移動していました。しかし「SpatialGate」では円形のワープゲートが現れ、その向こうにこれから移動する先の景色が見え、前後のシーンを自由に行き来できます。ワープゲートは「ドラえもん」に登場するタイムマシンの出口のイメージで作りました。

実は「SpatialGate」の前に、今年2017年の1月にリリースした「HoleLenz Gate」というものを開発しました。こちらはHoloLens向けのアプリケーションで、すでに販売していて、海外からの反応も多くいただいています。

オリジナルアプリケーションでは、SFや「ドラえもん」など、これまでに私が触れてきたものがコンセプトや演出の参考になっています。そうして自分の思い描いた世界を、現在のデバイスと技術でユーザーが気持ちよく体験できるレベルで再現できるか、試しながら開発しました。

──「HoleLenz Gate」の他でも、VR以外のMRやARといった技術に挑戦されていますか?

脇塚:
AR業界では、iPhoneがiOS11のアプリケーション開発キット「ARKit」をリリースしますね。それによりAR技術を活用する人が爆発的に増えると思いますし、iPhoneで使うARに可能性を感じています。AR技術を使ったなにかを開発したいとも考えていて、サンプルを制作してTwitterで公開したりしています。こちらは反響があり、オーストラリアのテレビ番組などで紹介していただきました。

「SpatialGate」に関しては実際にHMDを装着してVRで見ていただかないと、このアプリケーションの魅力を真に理解してもらうことはできないと思っています。YouTubeやTwitterなどで動画を発信しても、やはり動画で見るのとHMDで見るのとでは次元が違いますから。しかし、HMDは敷居が高いと思うので、iOSのARでより多くの人に体験してもらう方がいいのだろうか、と考えることもあります。

ただ、私としては「VR」「AR」「MR」のどの分野でも、表現法や見せ方の違いはあれど、シーンの構築など内部的な面はまったく同じなので、それぞれの分野に対して違いを意識していません。

──今後、VRはどのように発展していくと思われますか?

脇塚:
生活に密着してという部分でいうと、まだまだハード面の進化が必要だと思います。まず、今のHMDのような装着感では生活に密着しないのではないでしょうか。HMDが眼鏡やサングラスのような手軽さになり、一般層にも使えるようになると予想はしていますが、そこへ到達するまでにはまだまだ時間がかかると思います。VRに関しては、VR空間をシェアすることにも可能性を感じていますが、その技術が発達してもハードが小型化されてVRの世界を手軽に体験できるようにならなければ広まっていかないと思います。

VRはもともと立体のコンテンツで使われる技術なので、「立体ではない全天球映像をHMDで見る行為」をVR体験としている最近の世の中の流れを見ていて、これでいいのかなと思うことがあります。立体で構築された中をインタラクティブに動くことができるのがVRだと思うので、逆に双方向性がないものをVRと呼んでいいのかという疑問が個人的にあります。

VR分野のビジネスに関しては、これまでVRに触れてこなかった会社で「VRでなにかを作りたいけどよくわからない」という会社は多いと思います。そういったとき、発注側と受託側の感覚の擦りあわせは当面の課題になってくると思います。特にコスト面での擦りあわせです。全天球写真の撮影と、立体素材を制作するのとではかなり価格差があります。どちらを使うのかは用途次第なので、問い合わせを受ける側は目的にあった方を提案していく必要があります。

──今後チャレンジしてみたい技術やコンテンツはありますか?

脇塚:
私が開発したアプリケーションをマルチプレーできるネットワークを構築したいです。「日本列島VR」で、一人ではなく友だちと一緒に空を飛べるようになれば格段に楽しくなるでしょう。また教育面での活用を考えていて、そういったお声もいただいています。授業で全員が同じ空間を共有し、眼下に広がる地形を前に授業をおこなえば生徒は理解しやすいと思います。「日本列島VR」は数人で見ながらなにかしらやり取りをするために開発したので、指からレーザーポインターが出る機能などもあります。

ただ私自身がもともとプログラマーというわけではないので、プログラムの部分には未熟な点が多いです。これから少しずつプログラムの部分をかためながら、「世界遺産」を題材として取り組んでいくつもりです。「日本列島VR」のデータをベースに、その上に局所的に該当するエリアの立体化したモデルを乗せる。こういったもが複数あれば、活用の幅が広がると思います。

「世界遺産」に関してはあくまで個人的に開発したいものです。ビジネス的な目標としては「日本列島VR」など私が作ったアプリケーションの素材や移動するシステム全般、私の意図とは全然違う方向で活かしてみたい、とお考えの方や若手の方々と一緒に仕事をしてみたいです。VoxcellDesignは私一人で運営していますが、今後は人数を増やし、個別の案件に対応していく方面も視野に入れていきます。そして、なにかに縛られるわけではなく、面白いものをこれからもどんどんアウトプットしていきたいです。

ー脇塚様、貴重なお話を誠にありがとうございましたー

合資会社VoxcellDesign
神奈川県川崎市

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