【STORY × CAD CENTER】「想像を超えた”可視化”による驚きを」

筆者: 編集部

株式会社キャドセンターは、3DCG技術をベースにしたVRコンテンツ、インタラクティブコンテンツ、シミュレータなどの開発を行っています。今回は、同社のVRへの取り組みを中心に、代表取締役社長の清水宏一様とGISグループ空間情報デザインチームリーダーの河原大様にお話を伺いました。

──まずは御社の取り組みついてお聞かせください。

代表取締役社長 清水様(以下清水):
当社は、3DCGの技術をベースにした様々なコンテンツの開発を行っています。おかげさまで2017年10月に創立30周年を迎えることができました。今でこそ3DCGは表現手段として当たり前のものですが、事業を始めた当初は技術や表現も手探りでしたし、そのぶん初期の10年間は学術的な試みを多く行っていました。

現在はプリレンダCG、リアルタイムCGの制作に加え、実写撮影や動画編集、システム機器構築や空間演出など、コンテンツを総合的にプロデュースする会社として、お客様のご要望にお応えしています。

──そういった沿革の中で、VRという領域へ参入した背景を教えてください。

清水:
HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使用して体験するもの以外はVRにあらずという風潮の中であえて言わせていただくなら、当社は20年以上前からVR開発に取り組んでいたと言えます。その当時のVRは、3Dデータで構築した空間をリアルタイムで操作するインタラクティブコンテンツとほぼ同義でした。

設計図面しかない段階で、先行的に都市や室内空間を3DCGでビジュアライズしたり、美術品や文化財などをデータ化する中で、任意の操作や属性情報の表示などインタラクションを提供するほうが良いことは、お客様にとっても当社にとっても自明でした。また、現実世界をトレース、シミュレートできる3DCGの特性は、訓練用途のシミュレータとして導入される流れにありました。

ニーズが確実に存在し、私たちの探究心もくすぐられるような技術でしたから、リアルタイムやインタラクティブコンテンツへの取り組みは必然でした。15年ほど前にはタッチセンサーシステムを開発・販売していたこともあってデバイスやインターフェイスへの対応も業務の一部でしたから、HMD 型VRコンテンツへの移行も注力も比較的スムーズだったと思います。

──御社の技術はどのような分野で活用されているのでしょうか?

清水:
三つの分野での活用事例をお話します。一つめは建築や不動産など都市開発の分野です。例えば、新築マンションのプロモーションでは、プリレンダCGや映像が広告物や販促物として「商品の顔」や「購入者のベネフィット」を伝える役割を担い、VRは販売支援の一環として「検証性」と「リアルな体感機会」を担います。具体的には、竣工前でも各住戸からの眺めを体験できる眺望シミュレーションVRや、3DCGで構築したバーチャルジオラマを通じて立地の良さを伝えるVRなどがあり、購入成約の一助となることが期待されてます。


works:ザ・パークハウス 中之島タワー シアター映像制作・企画演出

二つめは、美術館をはじめとする様々な展示施設での活用です。こちらで取り扱うものは「もう存在しないもの」や「一般には公開されないもの」が多く、以前からアーカイブ用途も含めて3DCGとの親和性が高いのですが、ARやVRの登場によって検索型から体験型のインラタクションへシフトするケースが多くなりました。


works:明治日本の産業革命遺産 佐賀県三重津海軍所跡 三重津タイムクルーズ


works:海遊館 企画展「海遊館の顔博」顔カメラ

三つめは教育・訓練分野ですね。操船シミュレータを例に挙げると、訓練する環境を現実に近づけるために実際のデッキや装置類を施工し、外の風景は複数のプロジェクタで上映して体験者の視界を覆うなどの工夫をしてきました。このような手法はこれからも有効ですが、訓練する環境の条件によってはHMDを利用して省スペース化する流れもあります。また、命にかかわる業務が多いために訓練自体のリスク軽減もVR活用の指標となっています。この分野でのVR開発は責任も重大ですが、VRやMRが果たすべき社会的使命を最も具現化しているとも言えますので、今後も注力する方針です。


works:船舶運航シミュレータシステム(神戸大学)


works:地震火災避難体験 VR防災アプリケーション

──どの分野にも共通して求められる、VRの価値はなんでしょうか?

清水:
表現したり構築したりする対象の差による独自ルールや価値は異なりますが、いずれの分野でご活用いただく場合も、コンテンツ自体には正確さと美しさとの共存を求められますし、体験環境の構築という点では、操作性や運営の容易さが求められますね。

──受託制作だけでなく自社プロダクトもお持ちだと思いますが、それについてお聞かせいただけますか?

GISグループ空間情報デザインチームリーダー 河原様(以下河原):
VR関連では「REAL 3DMAP TOKYO for VR」を提供しています。これはフォトリアリスティックな3次元都市データをリアルタイムコンテンツ用に最適化したもので、東京23区を43エリアに分割し、エリア単位で権利を販売しています。

15年ほど前から「MAPCUBEⓇ」いう3次元都市データを提供していました。これは、測量データ、地図、航空写真をもとに構築した主要都市レベルの地形や建築構造物のデータです。当時、様々なメディアでも取り上げられたチャレンジングな取り組みでしたし、データとしても正確なものでしたが、いっぽうでフォトリアルなコンテンツではありませんでした。主なランドマークを除いた建造物にはテクスチャが貼られていませんでしたから、見栄えという点では不十分だったのです。

オリンピックやインバウンドによって東京という都市がこれまで以上に世界から注目され、大規模な再開発も続く流れの中で、フォトリアルに描画したデータの必要性を感じて開発したのがプリレンダCG用の「REAL 3DMAP TOKYO」でした。そして、VRでも体験可能にしているのが「REAL 3DMAP TOKYO for VR」です。価格は決して安くありませんが、喜ばしいことに多くの反響をいただいています。


REAL 3DMAP TOKYO:新宿エリア

──REAL 3DMAP TOKYOは具体的にどのようなシーンで活用されているのでしょうか?

河原:
多くの場合、広域の都市全体を映し出すというダイナミズムよりも、限定したエリアが3D化されている点にご着目いただいています。そのため東京以外でも、歴史や地理的特徴のある街を再現できないかという声もいただいています。

Google Earthをはじめ、多くの企業が3次元都市データを提供しています。先ほどもご紹介したように、競合との違いの一つはフォトリアリズムと空間性情報性を融合させ、正確なだけでもなく、美しいだけでもないコンテンツに仕上がっていることです。また、3Dデータはご購入いただいた後にお客様側で編集を加えるケースも多くあります。「MAPCUBEⓇ」や「REAL 3DMAP TOKYO」は構成する要素が一つ一つ分離できるため、お客様側での編集が容易にできるというのも特徴の一つです。

清水:
「REAL 3DMAP TOKYO for VR」でも建築分野での反響が大きいのですが、ゲームの中に組み込むことも可能ですし、実際に開発段階のデータをゲーム開発者にレビューしていただきました。様々な分野での活用が期待できるポテンシャルはあるのですが、VR自体の浸透度も含めて活用イメージが伝わりづらいケースもあり、デモを含めた制作実績を通してイメージや効果を掴みやすくする活動も併行しています。

──ありがとうございます。今後会社として手がけてみたいコンテンツはありますか?

清水:
どんなコンテンツを手がける場合にも、私たちは社会有用性を重視しています。エンタテインメント分野での活用が注目されるVRですが、業務効率化や従業員訓練など企業が抱える課題の解決に対しても有用だと考えていますので、VR制作でも社会有用性にコミットしていきたいと考えています。

先ほども例に挙げましたが、美術品や文化財をアーカイブ化したりVR化してコンテンツを作ることは、人間にとって価値ある体験を、地理や時間に縛られることなく提供可能にするという有用性があります。また、絵画という本物を愉しんだあとに、作者が見ていた光景などイメージの源泉をバーチャルに体験する機会なども提供できますから、芸術を巡る批評や解釈も豊かなものにできると思います。


works:『beksinski360』 VR Art

そういったことも踏まえ、当社は昨年秋から絵画作品のVR化をベースにしたサービス事業をJTB情報システムさんと共同で進めていますが、文化資源と観光とVRとの結び付きは、ますます重視されますので、従来の視点を超えた新しい文化的体験を提供することは、当社の重要なミッションの一つだと捉えています。

──そういったコンテンツを提供していく上で、何が障壁になって来るのでしょうか?

清水:
以前、危険薬物の防止を啓蒙するためにHMD型VRでフラッシュバックを再現したいというお話があった際には、技術や表現方法以前の問題としてリアルにすることの是非や弊害が議論になりました。結果的にはVR化は見送られましたが、VRを巡る倫理的な障壁や葛藤に触れた思いがしました。

フィリップ・K・ディックの小説ではありませんが、VRには模造記憶を創りだす力があると思っていますから。反面、その葛藤から来る「本物とは何か」という議論は私たちの探究心を刺激するものでもあり、今後も取り組むべきテーマだと思います。

──最後にVR市場の展望をどうお考えかお聞かせください。

清水:
私は文系なので、VRについて話すときは映画史を持ち出すことが多いのですが、リュミエール兄弟の「ラ・シオタ駅への列車の到着」が上映されたときに、初めて映画を体験した当時の観客は、驚きのあまり椅子から飛び上がったという話がありますよね。この話は俗説に過ぎないかもしれませんが、コンテンツのあり方も人々の反応もVRの現状そのものだと考えます。

映画が「動くこと」の驚きに観客が慣れてしまったからこそ、制作者はその状況を超えるべく多様な文脈を付加し、現在までビジネスや文化として残るに至ったと思うのですが、VRも「360度体験」や「○○がVR化」のニュースバリューが落ち着いてはじめて真価が問われると思いますし、市場の継続的な発展もそこからではないでしょうか。

反面、デジタルツインやテレイグジスタンスなどが進む中で、我々が手掛けてきたコンテンツが提供する「バーチャルでリアルを変える」効果の有効性が再認知されているという実感もあります。ハードウェアの進化と環境の整備が前提ではありますが、先進的なデジタルコンテンツを多く手がけて来た実績を信頼にして、VRの発展に寄与したいと考えています。

ー貴重なお話ありがとうございました。

株式会社キャドセンター
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