臓器に対する意識を変える。ゴーグルで見る命と、医療現場のVR

筆者:阿久津 碧

国内で人工透析を行なっている人の数は30万人を超え、深刻な問題となっています。国民の400人に1人が人工透析を行なっている日本は、世界でも稀に見る人工透析国家だと言えるでしょう。慢性腎不全などで腎機能が機能しなくなった場合、人工透析を行うか、腎臓の移植をすることで身体機能を保つのが普通です。しかし新しい腎臓を必要としている人の数に対して、圧倒的に臓器が不足しているというのが現状でもあります。献腎ドナーが不足している今だからこそ、我々は命の尊さを理解しなければいけません。

腎臓移植をVRで体験する

HoloEyes株式会社では、東京医科大学八王子センターで腎移植を受けた患者さんのデータを元に、移植した腎臓の3D画像をVRで閲覧してもらうという試みを2019年の1月から実施します。これは世界初の試みで医療業界からも、VR業界からも高い注目を集めています。

これまでも患者さんのCTデータとVRデバイスを用いることで、医療画像をVRで閲覧するというサービスを同社は提供していました。しかし腎移植を受けた患者さんと、献腎ドナー本人にそのデータを見て体験してもらうというケースはありませんでした。

自分の身体や内臓を、VRゴーグルを通して体験することができるという経験は、患者さんにとっても、医師にとっても非常に大きな意義があります。特に自覚を持つという面では、この体験は重要なプロセスになるのではないでしょうか。

健康意識に対する自覚

腎臓移植を行ったからといって、腎移植を受けた患者さんが元通り健康な身体に戻るというわけではありません。勿論根本的な治療として腎臓移植は大きな意味を持ちますが、そもそも移植をした腎臓が自分の身体に定着するかという問題がまず立ちはだかります。

移植された臓器は、元の身体にはなかったものですから、当然「異物」として認識されます。免疫抑制療法を用いて拒絶反応を抑えたとしても、現代医学では移植した臓器を20年以上定着させるのは難しいとされています。

だからこそ、腎移植を受けた患者さん本人や、腎臓が一つ減ってしまった献腎ドナーの方には、「健康に気を使わなければいけない」という自覚が求められます。せっかく移植した腎臓を一日でも長く自分の一部として定着させるためには、様々な点に注意しなければいけないのです。

健常者にとっても他人事ではない

腎移植というと、高齢者や、私のように産まれながらに腎機能に問題を抱えている人に限った話だと思われがちです。しかしそんなことはありません。日本は世界有数の塩分大国です。

厚生労働省の発表によれば、2015年時点で日本人の塩分摂取量は以下の通りとなっています。

男性:8.0グラム未満

女性:7.0グラム未満

世界基準の一日5グラムと比較すると、まだまだ摂取量が多いと言えるでしょう。醤油や漬物、味噌など、塩分含有率の高い調味料が多い日本の場合、どうしても塩分過多になりがちなのかもしれません。

しかし塩分の過剰摂取は腎臓に大きな負荷を与えます。若いうちにした無理が、年齢を重ねてから内臓に出てくるという場合もあるので、早い段階から健康意識に対する自覚を持ちましょう。

今回取り上げたHoloEyes株式会社の試みは腎移植患者、献腎ドナーの方を対象にしています。しかし今後はこういった試みを、企業や学校の健康診断など、健常者向けにも展開していくことで、意識改革に繋がるのではないかと私は考えています。

医療現場におけるVRの活躍

VRが医療にもたらす恩恵は他にもあります。

手術シミュレーション

難しい手術や症例の少ない手術を行う前に、VRで予行演習を行うことができます。経験の少ない医師や若手の育成にも効果を発揮するのではないかと期待されています。技術が進むことで、今後は医療現場の随所でVRを見かける機会が出てくるかもしれません。

患者の痛みの緩和

患者の痛みや不安を緩和する効果もVRには期待されています。特に子どもを対象とした治療で注目されており、アメリカでは既に一定の効果を上げています。内容としては、予防接種を行う子どもにVRゴーグルを装着させ、その間に治療を行ないました。VR画面には綺麗な風景が映し出されていたのですが、結果として痛みが緩和したと答えた子どもが、半数近くに上ったそうです。

病気の体験

幻覚や幻聴を見せることで、統合失調症などの精神疾患を体験するという試みが行われた例があります。親族や知人に精神疾患患者がいたとしても、これまでは周りの理解が追いつかないという例も少なくありませんでした。今後はこういった手段を用いることで、患者本人の不安や恐怖を共有できる機会も増えるかもしれません。

上記は実際にVRが医療現場で用いられた一例です。今後もデバイスの改善や、販路の拡大といった課題を克服していく中で、更に実用の可能性も広がっていくのではないでしょうか。

VRを装着したことで、人々の視野は格段に広がっていくでしょう。それまで把握できなかった自分の身体の中身や、人の心の痛みを体験することができるというのは画期的です。

今後市場規模も着実に広がっていくことが予想されていますが、娯楽としてだけではない、社会的なVRの意義にも注目したいですね。

終わりに

私自身、幼い頃より片腎で過ごしてきた腎臓病患者の一人として、今回の試みは非常に興味深いものだと感じています。日本はまだまだ透析が主流の医療体制ですが、だからこそ腎臓移植という決断に踏み切った患者さんには、自分の新しい臓器に対する愛着を抱いて欲しいという風に思いました。

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