命の大切さをVRで学ぶ。VR研修を導入した塚田農場の戦略

筆者:阿久津 碧

突然ですが『塚田農場』という居酒屋をご存知でしょうか?全国に200店舗も展開している有名チェーン店で、株式会社エー・ピーカンパニーという企業が母体となっています。同社では2017年の7月より、VRを用いたアルバイト向け研修を行なっているのですが、その内容を今回はご紹介させていただきます。

アルバイトの育成に力を入れる

塚田農場ではアルバイトが最大の戦力だと考えています。勿論本社で働く社員や管理職の方が重要ではない、ということではありません。しかし飲食店の店舗で、実際に接客に携わるのは主にアルバイトスタッフです。

だからこそ塚田農場や、株式会社エー・ピーカンパニーの理念をよく理解してもらう必要があります。塚田農場ではサービスの関係上、食品生産者の情報をお客さんに伝えるシーンもあるため、それらの内容を理解してもらわなければいけません。

理念を理解してもらい、情報を頭に入れる。そしてアルバイトスタッフと会社が同じ方向を向く。これらの課題をクリアする上で、VRという方法は最適だったのです。

VRで学ぶ素材の価値

塚田農場のアルバイト研修で行われるVR学習は、主に素材の価値を学ぶ目的で行われます。そして十分に学んだ素材の価値について、正確に消費者に対して伝えられるようになることがゴールです。

養鶏場や加工場に行くのが最も簡単に素材の価値を学ぶ方法ですが、そのために宮崎や鹿児島といったところにスタッフを行かせるのでは、時間や手間、お金もかかってしまいます。

そこで、実際そういった場所に足を運んだ社員の研修データをベースに、VRデータを作成するという決断に踏み切ったのでした。VRで学ぶことのできる研修内容は主に次の3つです。

【1】養鶏場での仕事

地鶏農家の鶏舎では、鶏の成長段階に合わせて、様々な仕事を行うことになります。美味しい鶏に育てるためには、環境や餌など、様々な飼育環境に気を使う必要があります。

スタッフが何気無くお客さんの前に出している料理や素材が、どれだけ手間暇をかけて育てられたのかを学ぶ重要な研修です。

【2】生き物が食べ物になるまで

加工センターでの放血(屠殺方法の一つで、血を抜く処理)などを、目線カメラで体感する研修です。残酷に思うかもしれませんが、自分達が日頃、命をいただいているという当たり前のことを再認識する上で、非常に意義のある映像です。

お肉を美味しく加工する処理を含めて、生き物が食べ物になる過程を見ることができるので、責任感を持って、お客さんに料理を提供することができます。

スタッフ一人ひとりが、自分達の提供する料理が美味しい理由を説明できるというのは、大きな強みになるのではないでしょうか。

【3】6次産業の今

6次産業というと聞き慣れないかもしれませんが、農業や水産業といった一次産業に従事する業者が、食品の加工や流通といった方面にも業務の多角化を行なっている意味で作られた造語です。

塚田農場のVR研修では、この6次産業の今についても学ぶことができます。ひなセンターや養鶏場、そして加工センターといった視点から、「ひよこからテーブルまで」をテーマに、分かりやすく素材、そして生き物について学ぶことができます。

アルバイトスタッフとしても、単に研修として物事を学ぶ以上に、ビジネスモデルとしても参考になる部分が多い貴重な体験なのではないかと思います。

一般の消費者も食について学べる

塚田農場のアルバイト向けスタッフを対象としたVR研修動画は一般に公開されていませんが、消費者が食品加工について知識を得る術はあります。アメリカにあるNCC(ナショナル・チキン・カウンシル)というNPOは、鶏の誕生から加工に至るまでの動画を公開しています。

孵化、養鶏、加工施設というテーマで上げられた3本の動画は360度動画として視聴することが可能です。VRヘッドセットを所有している人であれば、さながら塚田農場の研修VRのような疑似体験ができるのです。

ヘッドセットを持っていないという人でも、ブラウザで平面的に視聴することは可能なので、興味のある方は是非調べてみてください。屠殺などのショッキングなシーンは含まれていないので、グロテスクな映像が苦手な方でも安心して見ることができます。

人と生き物の溝を埋める試み

我々は日頃暮らしている中で、当たり前に生き物を食べて生きていますが、そのことを改めて意識することは多くありません。孵化や飼育、加工などの話になれば、尚更考える機会は減るでしょう。

しかし一方でそのことを理解する必要があり、知識を求めている人も一定数存在します。そんな人と生き物との溝を埋めるのに、VR動画は効果的なのではないかと思います。

それは今回の養鶏場や食品に限った話ではなく、今後はVRが多くの疑問、「知らなければいけない」を解消する手助けになってくれるかもしれません。

距離や時間、お金といった現実的な問題すらも、VRは瞬時に解決してくれるのです。そんな魔法のようなテクノロジーは、次にどのような驚きを与えてくれるのか、とても楽しみです。

終わりに

企業における研修でVRが活躍する場面は無数に存在します。今回のように、遠方で行なっている生産や加工を、VRを通して学ぶという方法は、効果的な利用方法ではないでしょうか。今後も多くの企業でVRを目にする機会が増えていくと思います。その中でも今回の例は、アルバイトスタッフをメインターゲットとしたものだったということもあり、企業のサービスに対する姿勢を垣間見ることができ、とても興味深かったです。

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