360度カメラ「THETA」が災害時の早期情報収集ツールとして導入
地震などの災害が起こったとき、現場の状況を正確に把握するのはとても大切なことです。今回、災害発生時における早期的な情報収集の目的で、国土交通省九州地方整備局(福岡市)が、360度カメラの導入を決定しました。全国でも類を見ない取り組みですが、これによって、災害対策はどのように変わっていくのでしょうか。
本記事の内容
管内21事務所に360度カメラを設置
今回の取り組みでは、管内にある21の事務所にTHETAを配備することになりました。2019年の3月頃には随時取り付けを開始していくとのことで、活躍が期待されています。
九州地方ではここ数年、大きな地震が頻発しています。平成28年の熊本地震などは記憶に新しいですが、その後も小さな地震や、大分県中津市の山崩れなど、自然災害の被害を多く受けています。
今回はそういった経験も考慮して、早期の情報収集や、安全な方法で現場を確認することの必要性が議論されたのでしょう。そして結果として、株式会社リコーが販売しているTHETAが選ばれたわけですが、その決め手はどのような部分にあったのでしょうか。
リコーの360度カメラ「THETA」を選んだ理由
通常の監視カメラではなく、リコーが発売しているTHETAを情報収集ツールとして採用した理由について、考えられることは以下のようなものです。
全天球という情報量の多さ
最大の特徴としては、360度を映せる全天球カメラであるということが挙げられます。通常のデジタルカメラや監視カメラの映りはどうしても平面的で、読み取れる情報量にも限りがあります。
360度カメラであれば、立体的に周囲の情報を把握することができますし、動画での記録も可能です。災害時の情報収集方法としては、これ以上ない機能を兼ね備えていると言えます。
遠隔地にもデータを共有できる
THETAで撮影したデータは、別の端末で確認したり、メールなどで送信したりすることが可能です。遠方にいる人に現地の情報を迅速に伝える上では、この機能は必須です。
大分で起こった災害を、東京でもすぐに把握できる。これだけでも本当は凄いことなのですが、ここまでは今までもビデオカメラや電話、メディアの力で実現できていました。
THETAはそれらに加えて、状況を立体的に伝えることができます。その場にいない人が正確に現場を把握したい場合、これほどぴったりな選択はないでしょう。
毎日新聞には、九州技術事務所の島本卓三所長のコメントで「360度カメラ画像があれば、現場を見ていない人とも情報共有でき、各組織の最高意思決定者にも的確に説明できるため、より迅速な復旧につながる」という発言が掲載されていました。
出典
「災害情報を迅速に把握 360度カメラを21事務所に配備 九州地方整備局 – 毎日新聞」
日頃あまり意識しないことですが、大きな意思決定を行う際には、会社員でも政府でも、上の判断を仰ぐことになります。360度カメラはその手続きを円滑にする役目も担っており、単に現場の状況を共有する以上の意味があるのです。
価格面での安さ
360度カメラの配備は、既に述べた通り管内の21事務所で行われます。それぞれに1台の360度カメラを配備するのか、複数台を配備するのかは分かりませんが、一台辺りのコストはできる限り抑えたいところだと思います。
その点今回配備することになったTHETAは一台6万円前後と、通販サイトなどで一般的な監視カメラなどに比べるとやや高めの価格です。
しかし最大の特徴である、360度を撮影できるということや、災害時にも利用できるということを加味すると、その考え方も変わってくるでしょう。
ちなみに、リコーのTHETAシリーズでは、今回配備するモデルよりも安価なシリーズも存在します。ただそれらは、一般の方が旅行などで使うためのもので、今回のような用途には適さないのが正直なところです。
結論として、災害時に必要な機能を備えた全天球カメラとしては、THETAは十分にコストを抑えられたものなのではないでしょうか。
メーカーに対する信頼
全天球カメラといっても、様々な企業が多様なものを販売しており、それぞれに特徴もあります。しかし中には欠陥のある商品や、安いだけで実用レベルには達しないようなものも散見します。
災害現場という非常時において、肝心のカメラがそのようなものでは当然困ってしまいます。しかし今回採用したTHETAは、リコーが手がけている製品なので信頼感がありますし、メーカー品であるという安心感や安定感もあります。
ある程度価格も抑えられ、製品としての信頼感にも問題がないという意味では、THETAが選ばれたのは必然なのかもしれません。
一つのデータから同時に状況分析ができるという強み
ここまでご紹介した以外にも、360度カメラを災害対策ツールとして導入するメリットがあります。それは、一つのデータから同時に状況分析ができるということです。
例えば土砂崩れに詳しい専門家、水道管に詳しい専門家、地震に詳しい専門家、救助に詳しい専門家などがいたとします。通常であればそれぞれの得意分野に焦点を当てた動画や写真を集め、個々に対策案を分析してもらうことになります。
対して360度映像であれば、一つの写真や動画から、同時に様々な状況の分析を行うことができるようになるでしょう。それによって、山と家との距離、地割れや倒壊している建物との距離なども把握しやすくなります。
結果的に専門家同士の協力や、起こっている災害の関連性などの分析も、現場から離れた場所で正確に行えることになります。それが実現すれば、今後は原因の分析や、復旧までの時間も早まるかもしれません。
終わりに
360度カメラは旅行などの思い出作りや、VR画像作成など、色々な場面で一般の方にも注目されています。一方で、今回のようなシーンを含む「人助け」の分野でも大いなる可能性を秘めている技術です。日本は災害と隣り合わせの国だからこそ、こういった技術が有効に利用されているのは、とても心強いことですね。
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