VRがPTSDに挑む。トラウマと対峙するための治療技術

筆者:阿久津 碧

人の病というのは体だけのものではなく、心に患うものもあります。そして心の病は時に、体の病よりも深刻になることがあるでしょう。そのため、治療も一段と慎重に行わなければいけないのです。そんな心の病の治療に、VRが役立つ未来が訪れるかもしれません。

心の病、PTSD

精神的な病の一つにPTSDというものが存在します。PTSDとは心的外傷後ストレス障害のことで、命の危機などを原因にした精神的ストレスを受けたことで、生活機能の障害や苦痛をもたらす症状のことです。

戦争帰還兵などが高確率で患うもので、トラウマになり得る体験が引き金となります。もちろん日本人でもPTSDを発症するリスクは存在します。事故や犯罪、虐待などの経験が代表的ですが、いずれもニュースで目にするものばかりです。

他にも地震や津波といった天災が引き金となる例も見られています。仮にPTSDを発症してしまった場合、持続エクスポージャー療法というものが有名な治療法として存在します。

この方法は簡単にいえば、トラウマとなった出来事を意図的に思い出す治療法です。「再び怖い思いをする、危険な目に遭う」という恐怖心や不安に襲われるのがPTSDの特徴の一つなので、その出来事をわざと思い出すことで「思い出しても何も起こらない。記憶はただの記憶で、恐ろしいことは起こらない」というふうに患者に気付かせるのです。

しかしこれは簡単なことではありません。専門医の立会いが必要なのは当然として、知識が浅かったり、患者へのストレスが過剰にかかったりすると、却って症状を悪化させてしまうケースもあるでしょう。

不安を増長させないためにも、方法とタイミングを慎重に見極めることが大切です。他にも治療法としては、グループ療法などの選択肢がありますが、基本的には記憶や現象を思い出して、トラウマと対峙するものが中心となります。

睡眠不足や不安感、鬱症状や自殺願望といった症状に合わせて、抗うつ剤や抗不安薬、安定剤を処方する投薬治療も用いられるので、まずは医師に相談する必要があります。

PTSDを患う危険性は誰にでもある

既に述べた通り、日本人を含めて世界中の誰もがPTSDを発症する可能性をもっています。アメリカにあるNPO法人、National Alliance on Mental Illness(通称NAMI)の報告では、5人に1人がPTSDに悩んでいる上、その6割は治療も施されていないということが明らかになっています。

医療制度の問題や貧富の格差が日本以上に広いアメリカの例をそのまま日本に当てはめることはできません。ですが、世界的に見てもPTSDが大きな問題となっているのは明らかでしょう。

半数以上の人が治療をされていないことには、方法的な問題も挙げられます。持続エクスポージャー療法は効果的ですが、前述した通りトラウマを悪化させる危険性があります。それに加えて根幹に抱えているトラウマの背景も一人一人違うものなので、簡単に治療へと踏み切れないのが現状です。

オーダーメイドの治療ということは、その分時間やコストも要することになるでしょう。仮に医療費や心の準備という問題をパスできたとしても、そこからも長い道のりが待っているのです。

VRによるPTSDの治療

デリケートな問題であるPTSD治療に対して、VRによるアプローチが注目を集めています。方法としては、VRで作り上げた仮想現実世界で、トラウマと対峙するというものです。

没入感の高いVRと、安全な環境下でのトラウマとの対峙は、非常に合理的で効果が見込めそうです。一人一人の状況に合わせて比較的簡単にVR空間を構築することもできるので、その人のための治療空間を設計できるという点で画期的な治療法と言えます。

トラウマと向き合うために現実の空間をセッティングする必要もないので、場所も選ばずコストもかかりません。痛みや強制性を伴うこともないので、患者のペースに合わせて段階的に治療を施せるのも特徴です。

トラウマが根深い人には荒いドットのようなVR空間を作り、徐々に慣れてきたらリアルなグラフィックで作っていく、なんていうこともできます。このプラットフォームと方法が確立すれば、PTSDに悩む多くの人が、低コストで治療を受けられる未来が訪れるかもしれません。

そうなれば、VRがPTSDの根本的な解決策になるかもしれません。現在は臨床医や医療研究者の間で実用化の調整が計られている段階で、まだ実例はありません。しかし全くの机上の空論ということもなく、むしろ現実的な案ではないでしょうか。

2019年はVRの年

PSVRなどのVRゲーム人気や、安価でVRセットが買える時代になった現代は、VRにとって追い風です。2019年は150億ドル以上の売り上げが期待されており(出典)、まさにVRの年となるのではないでしょうか。

市場におけるVRはまだゲームが中心ですが、どのような入り口であってもVRに注目が集まれば、その開発や研究は更に盛んになっていくはずです。そしてその波紋は少しずつ他の業界にも広がっていくでしょう。

既に医療業界でVRが活躍している例は国内でも存在しており、当サイトでも過去の記事でご紹介しています。VRの可能性は無限大で、その技術はゲームやエンタメの世界だけで留めておくべきものではありません。

今後様々な業界でVRが活躍し、今以上に身近な存在になれば、人々の暮らしはもっと便利になるかもしれませんね。

終わりに

制御された環境下で安全に、無理なく治療を行えるVR治療は、PTSD以外の精神疾患に対しても有効なのではないでしょうか。銃社会や犯罪の面では日本という国は安全な部類に入りますが、それでも危険は常に存在します。天災などはもっと身近でしょう。絆創膏や包帯のような感覚でVRヘッドセットが置かれ、有事の際にはそれを利用する。そんなふうに、VRがメンタルケアをする時代が訪れたら、心の病に悩む人は減るかもしれませんね。

Like@Wrap
Follow@Wrap

スポンサーリンク

特集記事

theta
VR関連データ・統計
VR オフィス
VR インタビュー