VRを使った発達障害者向け支援プログラム「emou」とは

筆者:阿久津 碧

近年は脳科学の研究が進み、鬱病や発達障害などに対する人々の認知度や理解度も上昇傾向にあります。そんな中、VRで発達障害にアプローチするプログラムを開発した企業があります。今回は株式会社ジョリーグッド(東京都中央区、代表取締役:上路健介氏)が開発した、発達障害者向けソーシャルスキルトレーニングVR「emou」(エモウ)についてご紹介していきます。

発達障害とは

発達障害は、生まれつき脳機能の発達が通常と異なるために、社会生活の中で不便さや生きづらさを感じる障害です。近年著名人らが自身の発達障害を公表したり、発達障害に関する本やエッセイ漫画が増えたりしたことも影響してか、その名前を聞く回数も増えてきているように感じます。

厚生労働省の発表によれば、現在医師から発達障害と診断されている人の数は48万1千人にも上るそうです。また医師の診断を受けていない人の中にも、潜在的に発達障害の可能性がある人は多くいると言われています。

発達障害の症状には、自閉症スペクトラム障害や注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などがありますが、細かい症状は人によって異なるため、発達障害であることに気付かず、辛い思いを抱えている人も多くいます。

まずは自身が発達障害であることに気付くことが重要ですが、その特性を理解した上で家族や周囲の人々に協力してもらうことも、生活には必要不可欠になります。

また、周囲から理解を得ることはもちろんですが、適切な療育や訓練を受けることによって、社会へ適応する力は伸ばすことができると、ジョリーグッドは述べています。

ソーシャルスキルトレーニングVR「emou」

今回ジョリーグッドが開発したのは、日常生活の中で欠かせない、社会へ適応する力、「ソーシャルスキル」をVRでトレーニングできるシステムです。生活は家の中だけで完結するものではありません。

学校や職場など、人は人と関わって生きていかなければいけません。しかし発達障害を持つ人は、何気ない日常生活の中でも人と関わることに、あるいは勉強や仕事などに対して困難を感じてしまいます。

emouではリアルに作り込まれた仮想空間内で、生活における様々なシーンを体験し、トレーニングを行うことができます。従来のトレーニングではワークシートやロールプレイを行うだけで、リアルな社会生活を再現するのは難しいことでした。

利用者も紙の上で学んだり、擬似的に社会生活の一部を再現してトレーニングを行ったりするのではいまいち入り込めない部分があったと思います。emouはVRを活用することで、様々なシーンを実際に体験しているかのような感覚でトレーニングを行うことができます。

さらにそれを何度も繰り返し行えるため、苦手なことや普段困難に感じていることを着実に克服していくことが自然にできます。従来のトレーニングとは大きく異なり、次世代のソーシャルスキルトレーニングプログラムとして、利用者は対人関係や集団行動を上手く対処していけるようになるでしょう。

専門医の監修のもと作られている点も安心です。加えてVRコンテンツはプロの役者を使い、高精度のVR開発チームにより制作されたそうです。今年の3月に東京ビッグサイトで開催された「Medtec Japan」では、emouの詳しい発表と体験展示が行われました。

「emou」を導入したSST VRスクールも開校

emouのサービス開始に合わせてジョリーグッドは、株式会社Kaien(東京都新宿区、代表取締役:鈴木慶太)が運営する支援施設TEENS新宿、TEENS川崎にて、emouを導入したSST(ソーシャルスキルトレーニング)VRスクールを開校します。

同校はemouを初めて導入する支援施設となります。先述した、リアルに構成された社会生活をVRの中で体験し、支援スタッフに支えられながらソーシャルスキルを身につけることが可能です。

emouを導入したスクール開校の他に、サービスの一環として全国の支援機関に向けて指導マニュアルを含めたemouのパッケージ提供も開始するそうです。

就労移行支援事業や、放課後等デイサービス、特別支援学級を設置する小学校中学校など、対象となる支援機関は幅広く、emouのような指導マニュアルも整ったプログラムが設置されれば、多くの発達障害者の方々が身近にSSTを受けられるようになるでしょう。

導入を検討したい、希望したいという支援機関や学校関係者の方はemouのホームページから情報を取得することができます。

「emou」公式ホームページhttps://emou.jp/

年齢や時期に合わせた多様なコンテンツ

emouには学齢期に合わせたコンテンツと、就労移行期に向けたコンテンツの2種類があります。学齢期向けコンテンツでは、学校内で起こるトラブルや友達との会話をVRで体験することができます。

就労移行期向けのコンテンツでは、職場で起きる出来事の対処法を学ぶために、VRでトレーニングを行います。このように、年齢や時期に合わせたコンテンツに加え、多様な日常シーンが用意されているので、リアルな体験ができると同時に、発達障害者の方の悩みに寄り添った内容となっています。

使用するのはVRゴーグルとスマートデバイスのみなので、手軽に導入できるのも利点です。支援する側にもマニュアルやセッション進行シートなどが付属しているため、すぐにSSTに取りかかることができます。

実際にemouを体験した人の98%は「ワークシートやロールプレイにはない場面のリアリティが魅力的」と回答しています。また89%が「同じ場面を何度もVRで体験できるのが魅力的」とSST VRの効果を実感しています。

終わりに

別の記事ではPTSDの治療にVRが活用できるということをご紹介しましたが、今回ご紹介したemouも今後社会の中で必要不可欠になるサービスなのではないかと感じました。先に述べたように発達障害の疑いがある人は多くいます。しかしそれに気づかず、他人から責められたり自分を自分で傷つけてしまったりしている人もまた多くいるのです。今回のようなプログラムが、生きづらさを抱えて苦しむ人々の助けになることを期待しています。

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