アニメの世界に吹く新しい風。VRアニメ『Pearl』が公開

筆者:阿久津 碧

360度のパノラマ画像やVR動画が多くのプラットフォームで見られるようになった昨今。アニメーションの世界にもVRの波が来ているようです。今回はGoogleが制作したVRアニメ『Pearl』についての紹介と、今後のVRアニメの「未来」について考えていきたいと思います。VRアニメーションは従来のアニメーションとはどのように異なり、どのような旋風を業界に巻き起こすのでしょうか。

360度VRアニメーション『Pearl』

Pearlは2016年にGoogleによって制作されました。GoogleのR&D部門と、数々の有名アニメーション作品の制作に携わり、オスカー賞の受賞歴を持つパトリック・オズボーン監督とがタッグを組んでいます。

公開当初はYouTubeにアップロードされましたが、その後アップグレードが施され、現在はPCソフトのダウンロードや販売を行うプラットフォーム「Steam」でもリリースされています。

Pearlはおよそ6分間のショートコンテンツで、自動車の中が舞台となっています。車窓から見える景色はくるくると変わり、同時に主人公である娘の成長と、その父親との関係性の変遷を見ることができます。

作中に流れるのはアーティストのアレクシス・ハート氏の楽曲「No Wrong Way Home」です。歌詞の意味を考えながら味わうと、より深く物語を楽しめる内容となっており、YouTubeのコメント欄には「思わず泣いてしまった」という方も多く見受けられました。

PearlはVRアニメーションで初めてアカデミー賞にノミネートした作品としても注目されています。近年様々なVRコンテンツが賞を受賞するということが増えてきていますが、Pearlはその先駆けとも言えるでしょう。

短編アニメ映画ということもあり、テンポよく進んでいくストーリーと、パステルカラーの美しい情景や、リアルに動き回る登場人物は見ていて心地が良いです。短くも心を惹きつける内容となっているので、気になった方は是非チェックしてみてください。

『Pearl』のアップグレード内容

YouTubeで公開された当初は、Googleが展開するVRヘッドセット「Cardboard」でしか360度VRアニメーションとして楽しむことができなかったPearlですが、アップグレードによって変更された点があります。

アップグレードでは対応できるVRヘッドセットがCardboardだけでなく、HTC ViveなどのVRヘッドマウントディスプレイにも対応できるよう変更が加えられました。それに際してSteamでリリースされることになったのですが、対応機器さえ持っていれば無料でVRアニメを体験することができます。

もちろん対応機器を持っていなくても、YouTubeで360度映像を楽しむことはできます。ですがより没入感のある作品を体験したいという方は、VRを使って映像を楽しんでみてください。

2018年には新作も

2018年にはGoogleが制作したVRアニメの新作が発表されています。タイトルは「Age of Sail」というもので、HTC ViveなどのVR機器に対応しているのはもちろん、それに加えてiOS搭載のスマートフォンやAndroidでも視聴が可能です。

Pearl同様、この作品も無料で視聴することができます。前作に続き約13分のショートストーリーではありますが、舞台が一定の場所に固定されておらず、シーンの切り替わりがある点はPearlとは異なります。

新作の舞台は1900年代初頭の北大西洋で、ストーリーは海の上で展開されていきます。古い小舟で大海原を渡る老齢の船乗りが、豪華客船から転落した少女を救うところから物語は始まります。

VRではまるで登場人物たちと一緒に、自分自身も航海しているようなリアリティのある世界観を体験することができます。海の上に反射する太陽光のきらめきや、空が光に包まれる瞬間の発光感、夕日の美しさなど、とにかく光の使い方が素晴らしく、リアリティに溢れています。

登場人物たちの動きもそうですが、全てのアクションがとてもリアルなので、そういう意味でも没入度の高い作品になっています。前作同様ショートストーリーではありますが、限られた時間の中でもまとまりのある内容や、高いクオリティの映像に引き込まれます。

2DバージョンはYouTubeで気軽に視聴できるので、まずはどんな作品か知りたいという方は参考にしてみてください。

GoogleのVR作品制作チームが解散

なんとも残念なことに、既に紹介した作品の制作に携わっていたGoogleのVR作品制作チーム「Google Spotlight Stories」は解散し、今現在は存在していないようです。

6年を超える長い活動期間の中で数々のVRアニメーション作品を生み出してきたチームですが、収益化が見込めなかったことなどが原因で事実上解体となってしまったようです。

私自身も本稿の執筆をきっかけに、ご紹介したPearlやAge of Sailを見ましたが、作品に対する感動も大きかっただけにこのような結果となってしまったことを残念に思います。

これからのVRアニメ

VRアニメーション作品の波は日本にも既に到来しており、名の知られているアニメーション作品のVR版が作られているケースも徐々に見られるようになってきました。新規の作品を手がけることも重要ですが、既存作品のVR化を行うことで一定数のファンを獲得するという手法はとても有効だと思います。

アニメーションの制作に携わる業界人もその動きには注目しているようですし、自身がアニメの世界に入り込んで体験できることに期待を寄せている視聴者も多いことでしょう。

第三者としての目線でしか見ることができなかった従来のアニメから、自身も登場人物のひとりとしてアニメの中の世界観を体験できるVRアニメが多く登場する時代は、もうすぐそこまで来ているのかもしれませんね。別の記事でもご紹介しましたが、新宿の映画館で恒常的にVR映画を上映するという試みを行われていますし、その動きにも注目したいところです。

終わりに

VRコンテンツは続々と増えてきていますが、それをどの家庭でも体験できるようになるには様々な課題があると思います。VRアニメ作品が今後増えていくとしても、どのような機器を使って、どのような場所でそれが体験できるのか。これからもVRアニメーションからは目が離せなさそうです。

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