レーサー育成は360度カメラで?鈴鹿を疑似走行できる技術

筆者:阿久津 碧

2018年、大手動画投稿サイトのYouTubeに一本の動画が投稿されました。それはインドのIT企業、TCS(タタコンサルタンシーサービシズ)が投稿した動画で、三重県にある鈴鹿サーキットをレーシングカーが走るオンボード映像です。それだけならそれほど珍しいものでもないのですが、この動画にはある特徴がありました。

360度画面のオンボード映像

TCSがYouTubeにアップロードしたのは360度のオンボード映像です。ドライバーが実際に見ている形式だけではなく、乗っているレーシングカーのボディーや、ドライバーの姿もはっきりと映し出されています。

以下の動画が実際にアップされたもので、TCSは2017年にもこういった動画を公開しています。

見ていただければ分かるように、オンボート映像ということもあって非常にスピード感があります。これまでもF1レーシングカーのオンボード映像などはアップロードされていましたが、全天球のものとなると一気にその数は減るでしょう。

360度カメラの使い方としても新しさを感じますが、このオンボード映像が実際にどのようなシーンで役立つかというのを、いくつか考えてみました。

教材としての使い道

思い浮かんだ一つ目の使い道は、教材としての役割です。教材として使う対象になるのは、プロのレーサーや、レーサーを志望している人たちです。

360度の映像は迫力と見応えが十分ありますが、単なる見応えだけではなく、その映像から学べる情報も沢山あるのではないかと私は思いました。

まず、VRヘッドセットを着用すればリアルな速さを体験することができるので、動体視力を鍛える上で良い教材になるでしょう。それだけでも、レーサーとしての適性を見極めることはある程度可能かもしれません。

没入感も相当なものになるので、単なる映像、VR体験として侮ることはできません。プロのレーサーにとっても、VRで映像を体験することの意味はあります。

走行経験が少ないサーキットなどを、VR映像で予習することができるからです。動画に映し出されているレーサーの癖や、アクセル/ブレーキの使い方などはサーキットについて学ぶ上で、非常に効果的な教材になるのではないでしょうか。

レーサーを育成する機関なども含めて、今後は幅広い学習分野で応用されることがあるかもしれないと感じました。

更に進んだエンタメとしての使い道

二つ目はエンタメとして使い道があります。前述した通り、360度映像はとにかくリアルで、VRヘッドセットなどと組み合わせて使えば没入感が格段にアップします。

エンタメ分野においてもその需要は見込めるのではないでしょうか。映像だけではなく、エンジン音やブレーキ音、サーキットの臨場感などは見事なもので、レーサーの息遣いがリアルに聞こえてきそうです。

レース観戦が趣味な人にとって、その体験は貴重なものとなるでしょうし、全くその分野に興味を抱いていなかったという人にとっても、惹きつけられるコンテンツではないかと思います。

単純なレース体験にとどまらず、レースという分野全体の振興にも大きく役立つキーアイテムとなるかもしれません。動画を撮影してコンテンツとして提供する側が、上手に娯楽として落とし込むことができれば、市場に受け入れてもらうのもそれほど難しくはないでしょう。

データとしての使い道

三つ目の利用方法は、データとしての使い道です。レースチームや選手が自らの走りを観察する上で、鮮度の高い情報が多く得られる360度映像は役立ちそうな気がします。

細かいミスや弱点、一人ひとりの課題という部分を臨場感たっぷりに分析できるので、平面的な映像で見るよりも気付きが多そうです。

タイムが速いときと遅いときの違いなども、この映像が決め手になって判明することがあるかもしれません。そうなったら、将来的に導入するレースチームも増えてくるのではないでしょうか。

公開に至った経緯

そもそも何故この映像はYouTubeに公開されたのでしょうか。そのことについてJタウンネットの編集部が、TCSの担当者に対して取材を行ったところ、以下のような回答が得られたそうです。

「NAKAJIMA RACINGのスポンサーとして、チームに速度やタイムの計測に関する『タイミングモニタ』というサービスなど、IT技術の提供をしていることの一環です。加えて、この動画を通してモータースポーツの振興を図り、レースへの来場者を増やしたい狙いがあります」

上記を見ると、既にデータとしての機能、エンタメとしての使い方がされているということが分かります。

モータースポーツはサッカーや野球と比較すると、日本ではまだまだマイナースポーツにカテゴライズされますが、こういった新しいアプローチは、業界に対する注目度を高めるきっかけになるのではないでしょうか。

体験するコンテンツは有効なマーケティング

ご紹介したオンボード映像は、見る映像でもあり、体験する映像でもあります。それはとても重要なことで、何かを擬似的に体験するということは、マーケティングを行う上で非常に効果的なのではないかと私は考えています。

それもコンビニエンスに、自宅にいながら体験できるのであれば尚更です。テーマパークへ赴かずとも非日常的な体験ができて、旅に出なくても異国の雰囲気を楽しめる。そのことだけで満足する人もいるかもしれませんが「実際のテーマパークにも行きたい」、「旅に出たくなった」と思って行動する人も少なからず存在するはずです。

それは今回のオンボード映像にも共通して言うことができます。映像で速さや迫力、臨場感を体験したら実際のサーキットにも足を運びたくなるかもしれません。むしろそれが健全なリアクションなのかもしれません。

そしてそのマーケティングのために高い広告費を割く必要も、CMを放送する必要も、大量のビラを配る必要もありません。インターネット環境さえあれば誰でも見ることができる動画サイトに、ただアップロードするだけなのです。

これほど有効なマーケティングはそうそうありませんし、その手軽さを360度映像と組み合わせることで、何倍もの効果を生み出すことに成功しました。将来的には様々な業界が360度映像とVR、そして動画投稿サイトを組み合わせた新しい無料の広告を生み出し、それが一つの手法として確率されるという日が訪れるかもしれません。

バーチャルレース観戦をビジネスに

これはまだ実現するのが先になるかもしれませんが、将来的には観客席ではなく、レーシングカーのリアルなVR映像などをメインとしたバーチャルレース観戦がビジネスになるかもしれません。

そうなれば会場に行かずとも、オンラインで決済して自宅からリアルなレース観戦が行えるようになります。もちろんテレビでレースを見るのとは比べ物にならない臨場感で、視点を切り替えて観客席や空中など、色々な場所からレースが見られるようになります。

遠方でレース場まで足を運べない方や、障害者や高齢者にとっては新しい趣味の選択肢となり得るかもしれません。レーシングカーだけではなく、競馬や競艇などにも応用できそうなので、5Gが安定して設備が導入されれば現実になるのも遠くはないでしょう。

終わりに

生のレースを見る機会というのは貴重ですし、意識的に行動しなければ中々そういった経験には恵まれません。ですが、動画投稿サイトにアップロードされている動画を、VRヘッドセットで体験するのであれば、その機会は一気に身近なものになります。実際のレースを目にしたことはないけれど、映像を見て興味が湧いたという人や、それで実際レース場へと足を運んだという人が増えたら、業界の活性化に繋がっていくことでしょう。今回のコンテンツに限らず、360度映像や動画サイトが足がかりになって、何かの知名度がアップするということは、どんどん増えていくかもしれませんね。

Like@Wrap
Follow@Wrap

スポンサーリンク