360度カメラで事故を防ぐ。車の安全と全天球カメラ

筆者:阿久津 碧

近年は高齢者の車事故や免許返納、芸能人の飲酒運転など、車に関連するニュースを耳にすることが増えた気がします。特に田舎では、車なしの生活など成り立たないと主張する人も多く、交通安全や年齢による問題以外の課題も山積しています。そんな中で、全天球カメラを事故防止に役立てることができれば、車そのものの安全性が大きく変わるかもしれません。

全天球カメラの先駆け「全方位モニター」

全天球カメラを車に搭載することで事故の抑止に繋がるかもしれないという論旨でしたが、その前に全天球カメラの先駆けとなった、全方位モニターの存在について触れないわけにはいきません。

全方位モニターとはパーキングアシストシステムの一つで、車を上空から眺めているような視点でモニターから車の様子を確認できるシステムのことを指します。

車を駐車する際には、どうしても見えにくい場所や死角になってしまう部分が生まれてしまいますが、全方位モニターを利用すれば、駐車のストレスは大きく軽減することができます。

近年はオプションで全方位モニターを搭載できる車も着実に増えてきており、ハイグレードの車種であれば最初から装備されているということも珍しくありません。完全に死角をなくすことはできないかもしれませんが、駐車時や発進時の事故防止には大いに役立ってくれそうです。

一般的な全方位モニターは、車の前後左右にそれぞれ独立した魚眼レンズが搭載されています。THETAなどの360度カメラも、本体の前後に超広角カメラを搭載しており、その映像をステッチ処理するという構造なので、この部分は非常によく似ています。

独立した魚眼レンズで撮影された車外の映像はカーナビゲーションなど、車内に搭載されているモニターに映し出されます。全方位モニターには様々な用途がありますが、主なものとしては以下のような利用シーンが想定されています。

パーキングアシスト

バックから駐車をする際など、死角になって見えない場所や、見えにくい障害物などの存在を発見して、ドライバーに知らせます。縦列駐車や狭い駐車場など、そもそも駐車が難しい場所においても、上空からの視点などでドライバーを助けてくれます。

車同士のすれ違い

日本の道路は極端に狭い場所も多く、車同士のすれ違いに苦労するシーンも少なくありません。他にも、信号待ちで右折(左折)車線に車線変更したいときなどに、直進車線の車が多くて曲がりにくい場合などもあると思います。そういった状況でも、全方位モニターを用いることで車同士の接触や、歩道への乗り上げを回避することができます。

巻き込み防止

大型車両などで多く見られる事故ですが、右折(左折)時に、信号待ちをしている歩行者や側面を走っているバイク、あるいは自転車を巻き込んでしまうことがあります。車高の違さなどから従来は防ぎにくい事故でしたが、全方位モニターに頼ることでこういった事故の回避にも繋げられます。

高速道路における合流

高速道路への合流に苦手意識を持っている人は結構多いのではないかと思うのですが、全方位モニターはここでも役立ってくれます。後方確認の補助をしてくれますし、合流時の事故を未然に防いでくれます。

上記のような活躍をしてくれる全方位モニターに対していち早く関心を示していた富士通研究所、富士通テン、ソシオネクストは文部科学省が主催している「平成27年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」で科学技術賞を受賞しています。

賞の受賞内容は「車の周囲を3次元的に見せる全周囲立体モニター技術の開発」でしたが、これも見ても、全方位を見渡せるモニターやその技術は、国という単位でも非常に需要が高く、有益であると評価された瞬間だと言えるのではないでしょうか。

そして近年は車外の安全装備としてだけでなく、車内の安全装備としても全方位を撮影できるカメラは注目を集めています。

ドライブレコーダーとして車内でも活躍

交通事故を起こしてしまったときや巻き込まれてしまったとき、重要になってくるのは証拠です。自分の過失が明らかに少ないような状況においても、そのことを証明する材料がなくて苦い経験をしたという人も多いのではないでしょうか。

誰もが車に乗り、事故に巻き込まれるリスクを孕んでいる現代において、自分の身を守る撮影機器の搭載は必須ともいえます。それがドライブレコーダーなのですが、近年はこのドライブレコーダーにも360度を撮影できる全天球タイプのものが増えてきています。

当サイトの他の記事でも全天球ドライブレコーダーについてご紹介したものがいくつかありますが、その最大の特徴は、「あらゆるトラブルを撮り逃さない」というところにあります。

従来のドライブレコーダーを車の前後に取り付けた場合、前方からの飛び出しや信号関連のトラブル、後方からの追突などは記録することができましたが、側面からの追突は記録できないということもありました。しかし実際には、側面からの映像証拠が必要なケースはかなり多く、横からの追突事故などの際にはドライブレコーダーが役立たなかったことも少なくありませんでした。

その点、全天球ドライブレコーダーは側面も含めて死角がないので、どういった事故であってもほぼ必ず映像資料を残すことが可能です。また、事故当時の運転席の様子を撮影しているという点もポイントです。

相手側の証言で「よそ見をしていた」、「スマホ操作をしていた」などと言いがかりを付けられた場合、そのことを否定する材料を用意するのは簡単ではありません。

事実無根の場合には裁判で相手がそのことを証明することは不可能ですから、それほど大きな問題にはならないかもしれませんが、あまり気分の良いことではありませんよね。

そんなときでも全天球ドライブレコーダーが搭載されている車であれば、事故当時の運転席の様子も記録しているので、こちらに過失がなかった場合には大きな証拠となるはずです。

勿論自分に過失がある場合にも記録されることになるので、日頃から気を引き締める意味でも搭載する価値はあるでしょう。近年の全天球ドライブレコーダーの中には、取り外してアクションカメラとして持ち出すことができるモデルもあるので、単なるドライブレコーダーに収まらない、多様な使い方ができるのも魅力です。

カメラを過信しないことの必要性

全方位モニターであっても全天球ドライブレコーダーであっても、高機能で安全性が高いこと、映像記録端末として優秀なことは疑いようがありません。ですが我々ドライバーはそのことに過信し過ぎてはいけないという意識を持つことも大切です。

バックで駐車をする際に全方位モニターには障害物が映っていなくとも、可能であれば自分の目で確かめることが重要ですし、モニターと目視では距離感も異なります。ドライブレコーダーに関しても、設置して放置するのではなく、録画がしっかりと行われているかを、定期的に確かめることが重要です。

警察が来るまでの間に、相手側のドライバーとトラブルになったら、ドライブレコーダーだけでなくスマートフォンなどでも撮影したり、そもそも会話をしなかったりという判断も重要です。

日々技術が進化して便利になることで、危機意識や安全意識というのはどうしても薄れてしまいがちです。それはある種幸せなことではありますが、テクノロジーに完全に依存するということは、トラブルに対して対応することを放棄するということなのかもしれません。

終わりに

360度カメラも全方位モニターも類似している部分が多く、どちらも素晴らしい発明です。そしていずれも、車の安全において大きな役割を担ってくれている装備ですが、これらの開発が更に進んで行くことで、車の安全だけでなく、車そのものの進化にも大きく繋がっていくのではないでしょうか。日進月歩で変化していくこれらのテクノロジーが、今後も我々にどのような驚きを与えてくれるのか、とても楽しみですね。

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