全天球カメラが失われる歴史を守る。デジタルアーカイブという選択肢

筆者:阿久津 碧

世界には後世に残すべき建造物や遺物、洞窟といったものが無数に存在します。中には我々に多くの学びや教訓を与えてくれるものもあるでしょう。しかし物理的な課題や予算面での問題によって、その全てを残すことは難しくもあります。だからこそ、これからは全天球カメラを使ってデジタルアーカイブとして記録していくことが必要なのかもしれません。

歴史的建造物の維持には多額の資金が必要

残念ながら、遺物や建造物の姿を維持するためには、お金の問題を無視することはできません。補修、管理する人を雇う人件費、補修そのものにかかる材料費など、その額は簡単に集められるものではありません。

寺社仏閣などもこういった問題は無視できませんが、観光地にあるような有名神社、仏閣の場合は参拝客からのお賽銭や寄付といった収益が見込めます。

京都にある有名な寺社仏閣などは、数年おきに補修や改修工事を行なっており、数百年前の状態を見事に維持しています。沢山の人が訪れても大丈夫なようにしておくためには、やはりそれくらいのペースでの工事が必要になってくるのでしょう。

対して、人があまり訪れることのないマイナー建造物、遺跡はどうでしょう。人の手が加えられたり観光客が押し寄せたりすることはありませんが、誰にも気付かれることなく静かに朽ちていくという問題は避けられません。

かといって有名観光地のように寄付が集まるわけではないので、修復する費用を捻出することもできません。歴史的な価値は認められても、収益が乏しいとなると国なども予算を割くのが厳しいと思います。こういった問題を抱えている遺跡や遺物は日本に限らず、世界各地に存在します。

アクセスしにくい場所にあればあるほど、人が足を運びにくくなり、補修のコストも上がっていくことでしょう。残念ですが、現状ではこういった問題を根本から解決する手段はありません。しかし代替案がないというわけでもありません。それが、デジタルアーカイブです。

全天球カメラで歴史を守る

360度、全方位を映し出すことのできる全天球カメラを使って、失われていく歴史をデジタルアーカイブとして残すという選択肢が近年は注目されています。全天球カメラは安いものであれば数万円から購入することができるので、資金繰りに悩んでいる自治体でも比較的導入が容易です。

操作方法も非常にシンプルなので、誰でも簡単に、ワンショットで360度の画像を撮影できるのも魅力です。写真では一部分しか切り取ることができませんでしたが、全天球カメラは空間を丸ごと写真として記録することができるので、データや場所の記録には非常に向いています。

日本ではリコーが販売している「THETA」シリーズが有名で、エントリーモデルであれば2万円前後、ハイエンドモデルでも10万円弱で購入することが可能です。デジタル一眼レフカメラなどの場合、エントリーモデルの機種を買って予備のレンズを二本ほど購入すれば7万円くらいにはなってしまうので、大量に用意するのであれば全天球カメラの方がやはりオススメです。

ミドルレンジの「THETA V」などは既に様々な法人に利用されており、単なる写真撮影に止まらない活躍をしています。当サイトの別の記事でもその一部をご紹介しているので、宜しければそちらもご覧ください。

デジタルアーカイブをVRで訪問

全天球カメラが優れているのは、360度画像を撮影できるということだけではありません。VRに対応している機種で撮影した全天球画像は、別売りのヘッドセットを用いることでVR空間として体験することが可能です。

失われつつある遺跡などを単純にデータとして残すだけでなく、何度でも再訪できるというのはロマンがありますよね。一度撮影してしまえば作業は全て完了するので、ランニングコストや補修費用といったものがかかることもありません。VRヘッドセットも安価なものならば数千円から購入することが可能なので、予算がないという組織でも安心です。

遠方にある遺跡を研究する際など、何度も足を運ぶのは難しいというときでも、この方法であればオフィスにいながら研究の一部は継続することが可能です。海外にある歴史的な施設などは交通手段などの問題でこの課題に直面することも多いと思いますが、一つの解決策になるのではないでしょうか。

デジタルアーカイブの導入例

実はデジタルアーカイブは既に導入されており、日本でもその事例が生まれています。場所は鎌倉にある人口洞窟、田谷の洞窟です。地底伽藍として有名な田谷の洞窟ですが、気候変動などの要因で近年は劣化が著しく、内部に掘られた壁面彫刻の風化や酸化が進んでいました。

鎌倉という場所は悪くありませんでしたが、観光地からは少し離れており、ガイドブックなどにも載っていないので知る人ぞ知る名所となっていました。そしてやはり補修には多額の予算が必要だということになり、田谷の洞窟保存実行委員会は頭を悩ませていました。そこで同実行委員会が目を付けたのが、全天球カメラです。

パートナーには前述した全天球カメラ「THETA」を製造、販売しているリコーを選び、早速デジタルアーカイブの作成に取り掛かりました。実際の画像や詳細な経緯については以下のページから確認することが可能ですが、細部まで見事に記録されていることがお分かりいただけるかと思います。

「暗闇から全天球で浮かび上がる、鎌倉の人工洞窟内部 | お客様への提供価値 | リコー」

上記のページでは静止画による全天球画像を確認することができますが、THETAであれば静止画以外に動画も360度で撮影することができるので、違った角度からのデジタルアーカイブ作成も可能です。

また、他の方法と組み合わせることで、グーグルストリートビューのような一繋ぎの空間として保存することもできるので、そうすることでより高い没入感を体験することも可能です。

デジタルアーカイブがきっかけで救われる遺物も

上記のようなデジタルアーカイブを作成し、インターネット上などで公開することで、その遺跡や遺物の知名度を上げることができるかもしれません。例えばSNSなど、多くの人の目に止まる場所で注目を集めれば、一気に観光客が集まるかもしれません。

田谷の洞窟のように主要な観光地から離れている場所にある遺跡でも、デジタルアーカイブがきっかけで観光客を集められれば、寄付や消費が促され、思わぬ資金が集まることも考えられるでしょう。そうなれば、デジタルアーカイブとして保存するに止まっていた遺跡などを、実際に補修することができるようになるかもしれません。

もちろんそんなに上手く物事が運んでいくという例は稀だとは思いますが、全く打つ手がなく、諦めていた施設管理者や保存委員、自治体などにとっては、試す価値が十二分にある方法だとも思います。歴史を記録するという使い方ができるデジタルアーカイブですが、ポテンシャルの高い遺跡や遺物であれば、歴史を救うきっかけになるかもしれませんね。

終わりに

歴史を昔から記録し、戦争も経験している日本には様々な遺跡や遺物が存在し、それらはいずれも守るべき価値のあるものばかりです。人知れず朽ちさせるのではなく、せめてその姿だけでも詳細に記録することで、次の世代にデータとして託すことができるのではないでしょうか。そういった行動を始めることで、実際の遺跡や遺物を守るきっかけに繋がっていくかもしれません。

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