痛くない内視鏡検査、360度の視野角を有した「カプセル内視鏡」とは
医療の発達など様々な要因により、人類の平均寿命は飛躍的に伸びてきています。2018年に厚労省が発表したデータによると、日本の平均寿命は過去最高を更新し、男女共に多くの人が長生きできる時代になっているということが証明されています。その要因の中には悪性の腫瘍、つまりガンによる死亡率が下がったことも含まれています。近年ではCMなどのメディアでガンの早期発見を呼びかける取り組みも行われており、一人ひとりが健康に対する意識を高めているのではないでしょうか。そんな中、痛くない内視鏡検査としてカプセル型の内視鏡が注目され始めています。もしかしたら360度カメラが医療の場面で活躍できるチャンスがこの「カプセル内視鏡」に隠されているかもしれません。
カプセル内視鏡とは
カプセル内視鏡はその名の通り、カプセルの形をした内視鏡です。本体の中に小型カメラが内蔵されており、小腸や大腸などの消化管の観察を目的として開発されました。従来の内視鏡では細長く曲がりくねった小腸内壁を観察することは難しく、検査方法にも難点があったため、カプセル内視鏡の登場は画期的と言えます。
日本ではこのカプセル内視鏡が実際の医療現場で既に使用が開始されており、小腸や大腸を観察するのに利用されています。カプセル内視鏡の開発は1980年代から進められており、日本では2014年より保険が適用されるようになりました。
カプセル内視鏡の形状は、その名の通り薬のカプセルのようで、通常のものよりも一回りほど大きいサイズとなっています。患者はこれを口から飲み込み、飲み込まれた内視鏡は目的地に進みながら体内の撮影を行います。そのデータが、事前に腹部に装着した受信機を通して体外に送信される仕組みとなっています。
最終的にはカプセル内視鏡は肛門から自然排出されるため、従来の内視鏡検査とは比べ物にならないほど患者の身体にかかる負担は少なくなります。ただし極々稀に、カプセル内視鏡が体外に排出されないケースも報告されているため、検査には専門医との相談が必須となります。
4つのカメラで全天周を撮影できる
2018年の2月にアメリカ・サンフランシスコで開催された国際学会「ISSCC 2018」では、搭載した4つのカメラで全天周を撮影できる高性能なカプセル内視鏡が発表されました。
開発したのは、韓国のKAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)で、消化管内壁の全天周を撮影でき、さらにはその画像データをリアルタイムで無線送信できることがこのカプセル内視鏡の最大の特長です。
KAISTの発表によると、従来のリアルタイムでデータを送信できるカプセル内視鏡は撮影視野が限定されていたため、腸内の問題を見落とす可能性がありました。全天周を撮影できるカプセル内視鏡自体は以前に開発されていましたが、リアルタイムでデータを送信できるものではなかったため、きちんと撮影が行われているか分からないなどの問題がありました。
しかし今回KAISTが開発したカプセル内視鏡は、4つのカメラの搭載により、360度の視野角を撮影できるようになったのです。それぞれのカメラ同士が死角をカバーし合い、全天周を撮影できるようになったおかげで、腸内の状態を余すところなく観察できるようになりました。
解像度や転送速度にもこだわり
KAISTが開発したカプセル内視鏡の特長は撮影視野だけではありません。従来のものより画像解像度が上がっているため、撮影したデータをクリアに観察することができます。撮影したデータは人体組織を通して送信され、それを皮膚に装着した受信回路で収集する仕組みとなっています。データの転送速度を速めるために、無線通信技術の開発まで行ない、最適な受信環境を実現しました。
開発したカプセル内視鏡の実証実験では無事に小腸内壁の撮影を行えたことが確認できており、カプセル自体のバッテリー寿命についても実用に十分な時間を有していることが証明されたそうです。
こういった技術の進歩したカプセル内視鏡が世に広まるようになれば、胃カメラや内視鏡検査が苦手な人でも簡単に検査を行うことができるようになるはずです。しかしカプセル内視鏡を飲み込むことができない人や、すでにペースメーカーなど電気医療機器が体内に埋め込まれている人は使用することができないので注意が必要です。
現在カプセル内視鏡を人間ドックなどの自由診療で利用する場合、およそ10万円の高額な医療費がかかってしまいます。医師の診断を受け、内視鏡の必要が認められた人は保険が適用されるので3万円ほどで検査を受けることができますが、それでも高額なのは変わりません。
カプセル内視鏡は一度使用したら廃棄しなければいけないため、検査に高額な費用が必要になるのも欠点です。日本ではまだ実用例が少ないのも、こういった事情から費用が高額になるというのも要因の一部かもしれません。しかし今後カプセル内視鏡の開発がもっと進み、検査方法として一般の方にも多く広まれば、将来的にはもう少し安くなるのではないでしょうか。
治療のための利用にも
従来の内視鏡と同様にカプセル内視鏡が治療のために利用できるよう、開発が進んでいます。従来の内視鏡ではポリープの切除や薬剤散布など、様々な形で治療を行うことが可能です。開腹手術をするより患者の負担も少なく、比較的処置が早く済むので体験したことがあるという人も少なくないでしょう。
オリンパス株式会社が開発を進めているカプセル内視鏡は、内視鏡内にバルーンを内蔵し、その中に薬液を入れ放出したり、反対に体液を採取できたりする技術を開発中だそうです。
従来のチューブ型の内視鏡と同等の機能を全て併せ持つのはまだ難しいかもしれませんが、カプセル内視鏡にできることが増えたらより医療は進歩していくでしょう。
360度カメラとカプセル内視鏡
今回カプセル内視鏡について調べて感じたのは、カプセル内視鏡の開発に360度カメラが役立つのではないかということです。KAISTが開発したカプセル内視鏡は4つのカメラを搭載してようやく360度全天周を撮影できるようになりました。今後さらに開発が進んでいく中で、超小型の360度カメラが開発されれば、より簡単に体内の撮影が行えるようになるのではないでしょうか。
カプセル内に入るほどのカメラを開発すること自体が難しいことかもしれませんが、現在でも手のひらに収まるほどの360度カメラではあれば開発されていますし、絶対に実現が不可能というわけではないと思います。
このように360度カメラが医療現場で活きてくるシーンというのは多くあると私は考えています。近年360度カメラやVRが注目されるようになって、実際に医療現場でそういった技術が活用されている例も見受けられます。360度カメラで手術の様子を撮影し、学生や研修医がそれをVRで体験しながら学ぶというのがその一例です。
技術が発達しても、最後に頼りになるのはその技術を扱う「人」です。今回のカプセル内視鏡もそうですが、撮影したデータから問題を発見したり、何もないということを確かめたりするのも人です。今後は技術の開発とそれに伴った人材育成が医療現場には必要になるのではないでしょうか。
終わりに
私自身、夏になると暑さで胃腸に不調が出てきてしまうため内視鏡検査に興味を持っていたところです。正直チューブ型の内視鏡検査には苦手意識を覚えていたので、カプセル内視鏡について知ることができ大変興味が湧いてきました。未だ問題も多く残されているようですが、もっと多くの人が利用するようになったら、私自身も是非試してみたいと思います。
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