スポーツ指導にも360度カメラが有用?360度中継から感じる可能性

筆者:阿久津 碧

360度カメラは個人法人を問わず、多くの人に様々な形で利用されているアイテムです。2019年8月には、東京の日本武道館で行われた柔道・パーク24プレゼンツ世界選手権第1日大会の様子が360度カメラを使って中継されました。このようにスポーツの場でも360度カメラが利用され始めています。このニュースを見て私はスポーツ中継だけでなく、指導の段階から360度カメラを活用できるのではないかと感じました。ニュースの概要から、スポーツ指導における360度カメラの有用性について今回はご紹介したいと思います。

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フジテレビが360度カメラを導入

フジテレビはスポーツの試合を360度中継できるよう、360度カメラを初めて導入しました。360度カメラを使って中継された試合は柔道・パーク24プレゼンツ世界選手権第1日大会で、開催されたのが2019年の8月25日と、放送からはまだまだ日が浅く、実験段階の感は否めません。しかしその効果は確かなもので、実際にその試合の中継を見て覚えているという人も多いのではないでしょうか。

実際の放送では360度の映像をもとに、臨場感のある中継が行われました。解説は2010年大会男子100キロ級覇者の天理大・穴井隆将監督(35)と09、11年大会男子60キロ級銀メダリストの平岡拓晃さん(34)が行い、選手が決めた技をマルチアングルで解説することで、より視聴者が試合状況を理解しやすいよう工夫されていました。私自身も当日の放送をテレビで拝見していたのですが、どの角度からでも選手の様子を詳しく観察することができますし、決定的瞬間も見逃すことはなく、観戦を思う存分楽しむことができたように感じます。

しかしながらこの大会で使用されたカメラは、一般的に360度カメラと聞いて思い浮かべるようなものではありませんでした。普通360度カメラといえば、当サイトでも数多くご紹介しているTHETAやInsta360シリーズのような、一台のカメラの中に2つのレンズが入ったものを思い浮かべると思います。ですが今回の中継ではなんと、110台ものカメラで撮影されたものが放送されていたのです。

それら110台のカメラは2階の客席最前列にぐるりと設置され、選手たちの一挙手一投足を見逃すことなく撮影していました。撮影された映像はデータを管理しているパソコンにリアルタイムで送信され、その場でスイッチングされます。これは「タイムスライス」と呼ばれる方式で、スポーツ中継に必要なリアルタイム性を実現することができます。そうして撮影された素材データはすぐに処理されるため、中継の必要なタイミングで360度のリプライ映像を放送することが可能となっています。解説をする側も、通常のカメラでは死角になってしまう部分までくまなく解説できるようになるので、今まで以上に現場の雰囲気や選手の凄さ、技の詳細を伝えやすくなったのではないでしょうか。

この技術を開発したのは韓国発のスタートアップ企業「4D REPLAY」です。設立当初は韓国に研究所を構えていましたが、現在はアメリカに拠点を移し、世界的な展開を進めています。2017年にはKDDIから出資を受けたことがニュースになっていたので、もしかしたら以前から4D REPLAYの存在を知っていたという人もいるかもしれませんね。

今回の試合の生中継に備え、4D REPLAY のスタッフと日本の企業は連携を図りながら、入念に準備をした上で放送が行われていたようでした。360度カメラやVR、5Gなどは昨今先端技術の話題になっていますが、普段の生活の中ではなかなかそれらを垣間見る機会はまだ少ないと思います。

今回の柔道大会のようにリアルタイムで流れる360度映像や、規模の大きいデータの高速転送が身近で見られるようになったことで、未来が着実に近づいているのを実感しますね。

360度カメラを使ったスポーツの中継例

近年は柔道大会以外にも360度カメラを使用したスポーツの中継例がちらほら出てきています。

ロッテの試合を360度VRで体験

2016年にはロッテがプロ野球界初の試みとして、試合の360度VR観戦を実施しました。この試みで使用されたカメラはGoPro6台を組み合わせた360度カメラで、試合をリアルタイムで撮影しながら撮影データをパソコンで処理、さらにライブ配信サーバーにアップロードしてVRゴーグルで体験できるようにするというものでした。

球場内の体験コーナーにVRゴーグルが設置されているので、観客は無料で試合のVR映像を体験することができます。360度カメラを使ったスポーツ中継の先駆けともいえる試みですが、2016年の段階でこんなにも技術が発達していたということが個人的には驚きでした。

auの4D Replayでサッカーを360度観戦

2017年に行われた「EAFF E-1 フットボールチャンピオンシップ2017」ではKDDIが試合の360度観戦やVR体験といった試みに挑戦しました。この大会では今回ご紹介した4D REPLAYの技術をKDDIが見事に再現し、スタジアムに60台のカメラを設置してゲームの流れや選手の動き、シュートの細部まで観客が楽しめるように工夫されていました。

またVR観戦専用のシートをスタジアム内に設けて、サポーターがリアルタイムで試合の様子をVR体験できるという試みもこの大会では実施されました。観客は自由に自分の視点を変えることができるので、まるで自分がプレーヤーになったかのような臨場感を味わうことができたそうです。

360度カメラが教材になる

フジテレビの360度カメラ導入や上記でご紹介したような360度カメラを使ったスポーツ観戦・中継の実例から感じたのは、360度カメラがスポーツの分野で教材として活用することもできるのではないかという可能性でした。

今の時代、スポーツや楽器など新しい趣味を始めたいと思ったときにYouTubeなどの動画投稿サイトを参考にする人も多くいます。何から始めたらいいのか、上達するにはどうしたらいいのか。今はそういった初心者ならではの疑問を、家の中でも解決することができる便利な時代です。

外出する手間もなく、お金をかけずとも多くのことが学べるようになりました。一方で何かを始めたいと思ったときに、時間やお金をそこまでかけられない、もったいないと思う人も増えてきているように感じます。そんな時代だからこそ、360度カメラが教材として利用できるのではないかと私は思います。

実際に360度カメラを教材として利用したい場合、指導者が実践した技を360度カメラで撮影し、それを生徒に見せながら技のやり方や構造を理解、そして実践に移すという方法があると思います。一瞬見ただけではわかりにくいようなものでも、360度あらゆる角度から細部まで観察できれば、生徒も頭で理解しやすくなり、体現しやすくなるはずです。

一度撮影してしまえば教材としてずっと利用することができるので、コストの面や体力面でも指導者の負担が減るのではないでしょうか。

マイナースポーツの選手獲得に繋がるか

360度カメラを教材として活用すれば、マイナースポーツに新たな参入者を集めることもできると思います。マイナースポーツは往々にして、習いたいけれど教えてくれる場所や人がいない、習うためには遠くに行かなくてはいけない、多額の費用がかかるなど、始める段階での壁が大きい傾向にあります。しかし360度カメラを使って、動画サイトなどに指導の360度動画をアップすれば、生徒や選手を集めやすくなるという効果も期待できそうです。

終わりに

360度カメラや5Gなどの進化で、確実にスポーツ観戦の形態は変わっていくような気がします。VR観戦や360度リプライなどが一般的になれば、よりスポーツに興味を持つ人が増え、業界も盛り上がっていくのではないでしょうか。そしてその過程で指導や振興イベントなど、多くのシーンで360度カメラを目にするのではないかと思います。

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