投げて撮る!イレギュラーなボール型360度カメラ「Panono」

筆者:阿久津 碧

全方位を撮影することのできる360度カメラは、従来型のカメラとは違い、レンズの数や性能によって、その形状も様々です。これまでの常識では考えられなかった形のカメラも続々と販売されているわけですが、今回ご紹介する「Panono」もそんなイレギュラーな360度カメラの一つです。

投げて撮影。ボール型360度カメラ

ドイツにある企業が開発したボール型360度カメラ「Panono」は空中に投げて撮影を行う面白い360度カメラです。同製品は元々2011年10月にプロトタイプが製作されており、当時の名前は「投げられるボール型パノラマカメラ」というものでした。

そのプロトタイプで撮影した画像を動画投稿サイトのYouTubeに投稿したところ、なんと350万回も視聴されることになり、製品を買いたいという声も相次いだそうです。ただ、プロトタイプは一般向けに販売するにはコストがかかりすぎていたため、同社は製品化に向けてクラウドファンディングによる出資を募りました。

その結果、目標金額の90万ドルをクラウドファンディングサイト「Indiegogo」で2014年1月に達成し、559ドル(日本円ではおよそ6万7,000円)での販売が決まりました。

Panono: Panoramic Ball Camera – YouTube

その後目標金額を達成した記念として出資期間を7日間延長し、出資金額毎に以下のような特典を設けました。

25ドル:公式サイトに名前を表示
499ドル:Panono一台
535ドル:Panonoと収納ポーチ、専用一脚と三脚
749ドル:PanonoとOculus Rift Dev-Kitを一台

上記は一例で、実際には10個の特典が出資額毎に用意されていました。他にも総調達額が110万ドルを越えればHDR撮影機能を追加し、130万ドルであればAPIを解放、150万ドルであれば製品カラーを一色追加など、ユーザーの熱意に応じたプランを準備していました。

当初は2014年の9月に販売する予定でしたが、製品の持つ複雑さから開発は難航します。結局販売が開始されたのは2016年の春先で、価格に関しても当初のおよそ3倍となる20万円以上という大波乱を招きました。

公式サイトの方では現在も購入できるようですが、日本語のサポートはないので、語学に疎い方はちょっと苦戦しそうです。2019年現在、Amazon.comなどのオンラインサイトでは在庫切れとなっていますが、日本での発売に関して、今後の予定がどうなるのか気になるところですね。

Panono 360 Camera 16K | Panono

クラウドファンディングの出資者自体は2600人以上集まったのですが、開発資金がかさんでしまったため、当初の販売額とは大幅にズレが生じてしまい、現在出資者に本体を送る手続きが難航しているのではないかと思われます。その手続きがどこまで済んだのかは知る由もありませんが、面白いアイディアのカメラですから、是非頑張ってほしいところです。

「Panono」の仕組み

ボール型という興味深い形をしている「Panono」ですが、その仕組みも中々面白いものとなっています。本体にはなんと36台もの小さなカメラが内蔵されており、それぞれのカメラが個別に撮影を行なっています。

空中に放り投げると、最も高く上がり、動きが止まった瞬間にシャッターが切られる仕組みとなっています。ステッチングはクラウド上で行われるのですが、完成した写真は上から下を見下ろす構図となります。ただし放り投げた際に回転がかかりすぎているとエラーになってしまうため、その辺りには注意が必要です。

放り投げる以外にも、三脚や一脚を使用して撮影したり、手に持って一般的な360度カメラのように撮影したりするという方法も選ぶことができます。カメラを投げにくいような人の多い場所や、天井の低い場所ではこういった撮影方法が良さそうですね。

7200万画素の高画質を誇っている同製品ですが、昼間の屋外に特化している部分があり、屋内でシャッタースピードが落ちるシーンや、夜景などではその能力を十分に発揮することができません。こういうときにも、手持ち撮影や三脚による撮影の方がいいかもしれません。

その他の投げて使える360度カメラ

実は投げて撮影が行える360度カメラは「Panono」だけではありません。そのまま投げて撮影するというよりは、アクセサリーを装備して投げるという形なので少し毛色は異なりますが、いずれも興味深いカメラばかりです。

人とは違う写真が撮りたい方や、新しい撮影スタイルに興味があるという方は、是非参考にしてみてください。

Insta360 ONE X

最初にご紹介するのは360度カメラ界ではお馴染みのInsta360が販売する「Insta360 ONE X」です。同製品は見た目こそTHETAなどと同じような一般的な360度カメラのフォルムで、一見すると投げられるようには見えません。

Insta360 ONE X – その瞬間を掴め

しかし専用アクセサリーの「Insta360 ドリフトダーツ」を使えば、本体を投げて撮影するドリフトショットができるようになります。その名の通りダーツのように放り投げると、勢いと躍動感のある映像を誰でも簡単に撮影することが可能になります。

「Insta360 ONE X」が強みとしているシャープな映像に加え、スローモションなどの加工を合わせれば、まるで映画のワンシーンのようなショットを記録することが可能です。

GoPro用アクセサリー「AER」

お次はアクションカメラで有名なGoProの関連アクセサリー「AER」です。GoProは最近Fusionなど、360度カメラ業界にも進出してきており勢いがありますが、そのアクセサリーもユニークです。

「AER」の使い方はとても簡単です。スポンジのような柔らかい素材でできたロケット状の本体の先端に、GoProを取り付けます。後はアメフトボールの要領で投げれば、すーっと遠くに飛んでいきます。折りたたんで小さくすればバッグの中に収納することもできますし、料金も約7,000円と、とてもリーズナブルです。

当初はクラウドファンディングサイトの「Kickstarter」で出資を募っていましたが、現在はAERのサイトhttps://www.aervideo.com)で販売を行っています。

AER: Throw Your Gopro (KICKSTARTER VIDEO) – YouTube

上記のように、360度カメラを投げるという発想は「Panono」以降も数多く採用されています。しかしお気付きの方も多いかもしれませんが、「Panono」と「ドリフトダーツ」や「AER」では、投げる行為の種類が異なります。真上に放り投げるのか、ボールのようにどこかへ放り投げるのか。

当然どちらの投げ方をするのかによって、完成する写真も全く違うものになりますし、撮影に必要なスキルも変わってきます。そういう部分も十分に検討しながら、自分に合ったカメラを選んでみてください。

投げることで死角が消える

当たり前ですが、普通のデジカメやスマートフォンは、投げながら撮影するということはありません。では何故360度カメラはこれほどまでに投げられるのかというと、それは死角が関係しています。自撮り棒を使って360度写真を撮影した場合、完成した写真には自撮り棒が写り込んでしまいます。

その部分を消す処理をしてくれる機種もありますが、そうでないカメラの場合、単純に自撮り棒部分が不要な写り込みになってしまいます。手持ちで撮影するときも同じです。撮影者の指が写り込んでしまうと、せっかくの360度写真の迫力も薄れてしまいますよね。

これに対して放り投げる360度カメラは、三脚や一脚、あるいは人の指といったものが映らず、完璧な360度映像を撮影することが可能となります。そう考えてみると投げられる全天球カメラが開発されたのは必然とも思えますが、そうだとしても中々に大胆な手段を選んだとも思います。

「Panono」に限っていえば本体価格が日本円で20万円を超えることになります。いくらそういう仕様だと説明されても、20万円のカメラを空中に放り投げるのには勇気がいりそうですよね。皆さんならそんなカメラを上手くキャッチする自信、ありますか?

終わりに

常識的に考えたら、カメラを投げて撮影するなんていうのは考えられないことでした。しかし一方で、360度を撮れる全天球カメラと「投げる」という行為の相性は非常に良いとも思えます。編集機能と併用すれば、投げて撮影した映像の面白さも、更に広がっていくかもしれません。

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