未来の測量。全天球カメラを使った高精度の3D地図作成が実現

筆者:阿久津 碧

車による事故やトラブルは高齢化やドライブレコーダーの普及により、ニュースなどでも見かける機会が増えてきました。そうなると期待されるのは車の自動運転化です。自動運転化が現実のものとなったら運転する楽しみというのは減るかもしれませんが、事故の危険性やドライバー同士のトラブルは格段に減るでしょう。そんな自動運転化に不可欠な課題を、日本の企業が360度カメラを使って解決するかもしれません。


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自動運転化には3Dマップが不可欠

自動運転化を現実のものとするために避けて通れないのは、高精度な3Dマップの作成です。自動運転以外にも道路管理や点検などの面でも3Dマップは役立ちます。しかし本来3Dマップを作るのは容易なことではなく、設備投資や高い技術力が不可欠となります。特に技術料の課題は大きいところですが、北海道に本社を構えている株式会社岩根研究所であれば、そんな課題も解決できるかもしれません。

岩根研究所の3Dマップ技術

同社は3D映像の収集と活用サービスを事業内容としている企業で、車と360度カメラを使うことで測量を実現しています。

株式会社岩根研究所|映像がそのまんま3D地図になる

『移動計測装置:画像型モービルマッピングシステム』、通称IMSと名付けられたこの車は、従来の測量のようにレーザー点群を使わず、画像処理に重きを置いたシンプルな計測機となっています。

車体にはデュアルカメラを積んでいるので、走行していても相対制度を確保することができ、正確な映像撮影が行えるようになっています。IMSは撮影したデータを元に、CV(カメラベクトル)技術と呼ばれる独自の技術を活かし、相対空間を作り出しているそうです。さらにそこへGPSやGCP(既知点)といった位置関連情報を当てはめることで、地理座標系へと補正しています。

中々正確に理解するのは難しい技術ですが、本当に活用法が多く、画期的な技術なのです。同社ではサービスに関するPVもアップロードしているので、宜しければそちらもご覧ください。車体に載せる360度カメラとしては意外に小さめで、一見するとルーフに荷物を積んでいる車と見間違えてしまうほどスタイリッシュです。

IMS – YouTube

撮影動画はアプリで活用

IMSで景色を撮影して測量をしたら、その動画は次に『3DGIS』というアプリケーションで活用します。アプリでは撮影した動画の全天球映像を様々な角度から確認することができます。素晴らしいのは路面にも死角がないという点です。

Googleマップを作成するために走っている車両などは、車両そのものが遮蔽物になって真下の道路を見ることができませんが、『3DGIS』で映像を表示すると、自動的に車両が削除されているので、直下の路面状況も容易に確認することができます。上カメラから下カメラに切り替えると、更に詳細な道路状況も確認できるので、道路管理などに導入する上では十分実用レベルかと思われます。

アプリでは2Dマップとの組み合わせも行えるので、俯瞰的に見た2Dマップをクリックすれば、連動した3Dマップにジャンプする仕様となっています。この辺りはGoogleマップを日頃から使っている人であれば、直感的に操作ができそうですね。

3D映像上には関連資料のリンクを設置することも可能です。建設が予定されている建物の3Dデータを置いたり、写真や資料を貼り付けたりできるので、不動産業界や営業職でも応用できそうですね。貼り付けたリンクはタグ検索することもできるので、検索をすればすぐにジャンプもできます。

そして当然、計測にもしっかりと対応しています。3次元計測では、先述したようにレーザー点群を用いません。そのため、アプリを操作しているユーザーの点指定リクエストに応えて、2次元映像の各点を3D座標として計測します。

マニュアル計測の他にオート機能もあるので、使い手の知識や技術に応じて活用できるのも魅力ですね。これまでにも3D地図は存在していましたが、リアルな空間を測量するという意味合いでは、今回ご紹介しているサービスはトップレベルに正確なものだと思います。

『クラウド上にもう一つの地球を創る』というキャッチコピーを同社は掲げていますが、あながちそれも大袈裟ではないのでしょう。もう一つの地球が日本規模、世界規模で完成したら、それによってもたらされる恩恵は計り知れません。

様々なテクノロジーの組み合わせで岩根研究所のサービスは成り立っていますが、その中でも360度カメラの活躍には光るものがあります。これまでの3D地図サービスにおいても360度カメラは鍵となる役割を担っていましたが、計測においてもそれは例外ではありません。私たちの生活の中ではあまり関わることのないこの端末が、私たちの生活を根本から支える未来が訪れるかもしれませんね。

状況に応じた撮影が可能

岩根研究所ではIMSのような自動車型計測器の他に、環境に応じた撮影方法も提案しています。例えば『SKY CV』と呼ばれるサービスでは、ドローンを使った空撮を行うことができます。車では入り込めないような場所もドローンを使えば容易に撮影が行えますし、IMS同様しっかりと3D計測が行えます。

高所にある施設の設備点検や建設現場の管理、災害時の資料集めや観光業など、とにかく幅広い仕様用途が考えられます。車もドローンも入れない場所では『INFO360』という、人が手にカメラを持って、歩きながら撮影するサービスも存在します。

線路や建築現場、建物内などの現地調査において活躍しそうです。この他にカートでの撮影という選択肢もあるので、あらゆる環境下での計測が可能となっています。対応しているアプリケーションも複数種類存在するので2D変換や3Dモデリング、立体化、加工など、目的に合わせたものを選べます。

将来的には日本全土のCV映像が撮れるか

実は岩根研究所では、日本以外に香港やタイのCV映像を撮影しており、いずれも大規模な3Dデータベースを構築しています。政府機関への納入実績も豊富で、国内でも既にCV映像撮影が進められています。

現在は高速道路を中心に撮影が行われていますが、将来的には全国の一般道路も対象になるかもしれません。国土交通省や国そのものがこの取り組みをどのように評価し、後押しするかにもよりますが、将来的には日本全土のCV映像が撮影できるかもしれません。

仮想空間にもう一つの日本が生まれることの意義は大きく、そのデータは幅広い分野で役立てられるのではないかと思います。期待されることの一つが自動運転化です。高精度の3Dマップが現実のものとなれば、自動運転は今より格段に我々にとって身近な存在となるに違いありません。

ありそうでなかった機械。ありそうでなかったアイディア。そしてありそうでなかったサービスが一つひとつ増えていくことで、全てを捉えるレンズのように、我々の視野も少しずつ広がりを見せていくのかもしれません。

終わりに

私自身生活の中でGPSや地図アプリを日常的に使う身で、車で遠出をするとなればナビ無しでは旅行が成り立たないのではないかと思われるほどです。車には360度を撮影することのできるドライブレコーダーがあり、旅先では360度カメラを手に記念撮影をする人々がいる。そして今、私達が走る道の測量も360度カメラで行えるというのが今回分かって、驚きを隠せません。近い将来自動運転化は当たり前のものになると思いますが、その車体にもやはり、360度カメラが搭載されているかもしれませんね。


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