経験は体験できる。救命救急の現場をVRで観られるシミュレーター

筆者:阿久津 碧

救急医療の現場は常に緊迫しており、そこでの働き方を経験しながら学んでいくのは容易なことではありません。現場の先輩たちも忙しくしていることを考えると、ゆっくりと話を聞いたり質問をしたりというのも難しそうです。そんな救急医療のジレンマを、VRという切り口から解決していく試みが行われています。

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救命救急VRを開発

VRソリューションに力を入れている株式会社ジョリーグッド(東京都中央区、代表取締役:上路健介)と日医大行動救命救急センターが協力し、臨床ヴァーチャル体験学習システム『救命救急VR』が開発されました。このサービスはその名の通り、VRヘッドセットを介して救命救急の現場を体験できるといったものです。

救命救急VR – 日本医科大学付属病院 – YouTube

高精細化したVR映像は美麗なグラフィックを実現しており、本当の救命救急現場を経験しているかのような臨場感を味わうことができます。コンテンツは360度の映像で体験することができるので、平面的な録画画像よりも迫力のある現場映像で学ぶことができます。

これに合わせてジョリーグッドは、医療用人体モデル等の販売で有名な株式会社京都科学(京都府京都市、代表取締役社長:片山英伸)と業務提携を行い、『救急救命VR』に対応する医療教育用シミュレーター、並びに医療教育用シミュレーター練習法VRセットの販売も開始することとなりました。

VRコンテンツの技術と、医療現場に関する深い知識が合わさったことにより、更にコンテンツとしての価値が高まった印象を受けます。VRの中に出てくる患者さんは生身の人間で、実際日医救命に搬送された人の集中治療映像を360度カメラで録画しました。

これによって、現場の緊張感を肌で感じられるだけでなく、仕事中に遭遇する可能性のある様々な症例に関する処置方法を学べる実践的な内容となっています。

価格は一人用の「救命セレクト」(VRゴーグル一台、現場VRコンテンツ、シミュレーターVRをそれぞれ一つずつ)が15万円。同僚や関係者に説明しながらデモを行える1on1というプランだと「救命1セレクト」(VRゴーグル一台、iPad一台、現場VRコンテンツ、シミュレーターVRをそれぞれ一つずつ)で27万円となっています。更に現場VRコンテンツを3つとした「救命フルセット」が37万円で販売されています。

この他にもセミナーや講義などを想定した「集合セミナーセット」というプランも存在し、「救命1セレクト」だと84万円、「救命フルセット」だと94万円という価格設定になっています。

詳しい内容や問い合わせ方法、資料請求についてはこちらから確認することができるので、気になる方は是非ご覧ください。

救命救急VRのメリット

医療現場を体験できるというだけでも、既に有益な教材だと思いますが、このサービスの具体的なメリットについて見ていきましょう。

リアリティのある現場を体験できる

実習などを行なっているとはいえ、生の治療を見ている経験が少ない生徒たちに、どうやって自信を付けさせるかが、これまでは大きな課題でした。教育現場と実際の医療現場にギャップを感じてしまい、心が折れてしまう生徒も少なくありません。

『救急救命VR』は医療教育用の人形などではなく、生身の人間が治療を受けている教材となっているので、当然リアリティも抜群です。それまでドラマや映像の中でしか知らなかったリアルな現場を、VRを通して体験することができるので、生徒たちの経験にも直結します。

治療を施すドクターたちも当然一人の人間ですから、段階的に育てて自信を付けさせていく必要があります。しかし実際の医療現場に出てから丁寧に教育するのには、どうしても限界があり、これまでは否応なしの成長を求められているシーンも少なからずありました。

それがプラスに作用する例もあるとは思うのですが、着実に自信を育んでいく手段としては、VRによる教育の方が効果も期待できそうですし、事故などのリスクもありません。

様々な症例について学べる

現実に発生した搬送例をそのまま教材にしているので、色々なシーン、病状毎の治療例を学ぶことができます。様々な病状に応じて的確な指示が求められる救命救急の現場では、高い状況判断能力が求められます。そういった、従来であれば現場に出てから培っていた領域に関しても、この教材では丁寧に学ぶことができます。

複数の視点から現場を見渡せる

治療の現場にいるのは一人のスタッフだけではありません。患者一人に対して10人以上の医療スタッフが付くことになり、その一人ひとりが常に別々の動きをしています。これまでのような二次元映像だと、そのスタッフ全員の動きを追うことは困難で、正確に記録するためには別々に撮影する必要がありました。

360度カメラであれば、一台のカメラによる撮影で、治療現場を全て映像として記録することができます。

スタッフ毎の動きが見たいのであれば、その方向に向けて顔を動かすだけです。自分が担当することになる役割以外のスタッフが、日頃どのように動いているのかを学ぶのもいいでしょう。

本番の現場で悠長に周りを観察している余裕はないでしょうから、事前にオペ看の立ち回りや器械出しの流れなどを見ておいても参考になると思います。術野だけを定点カメラで撮影している映像とは異なり、360度VRには多くの情報が含まれています。その中から一つでも多く気付くことができたら、VR体験でも現実に近い経験を持ち帰れるはずです。

的確な解説を聞きながら学べる

『救急救命VR』では、監修している日医救命の横掘医師による解説も聞くことができます。画面上にはバイタルモニターも合成されているので、解説と処置映像、そして患者のバイタルという三つの視点から状況を把握できる作りになっています。実際の医療現場では、リアルタイムにこれほど細かい患者の病状説明を聞けるシーンはほとんどないので、VRだからこそといった感じですね。

医療現場とVR

実はこれまでにも医療現場で360度カメラやVRが採用された例はいくつかあり、当サイトでもその一部をご紹介してきました。

手術の様子を360度カメラで撮影。医療の進化を支えるサービス

ハイエンドモデルの360度カメラを用いて、実際の手術映像を記録するという試みについての記事です。教材のような形式ではありませんが、VRで手術を体験することはできますし、他の観点から見てもプラスが大きい試みです。記事内では、医療現場で活躍している360度カメラについても触れています。

臓器に対する意識を変える。ゴーグルで見る命と、医療現場のVR

こちらは移植後の臓器を、患者さん自身にVRで閲覧してもらうという試みについてご紹介した記事です。世界でも初の取り組みということで高い注目を集めましたが、とても面白い切り口だと思います。医療従事者だけでなく、病気を患っている患者さん側にも健康意識を育んでもらうという発想も理にかなっており、臓器移植以外の分野でも応用できるのではないかと感じました。

終わりに

360度カメラやVRが医療現場で活躍している例はこれまでにもあり、今後も着実に増えていくのではないでしょうか。治療を受けるのも人間ですが、治療を施すのも、やはり一人の人間です。それぞれが苦手意識や不安を抱えていますし、人間ですから完璧でもありません。しかし360度VRコンテンツは、そういった医療従事者の卵が抱えている恐怖のようなものを、確実に減らしてくれるアイディアだと思います。

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