海女の未来を360度カメラとVRで救え!鳥羽の高校生らの試み

筆者:阿久津 碧

突然ですが、皆さんは海女という職業をご存知でしょうか? 2013年度にNHKで製作された『あまちゃん』を視聴していた方は多いと思いますが、その中で出ていたのが海女です。日頃暮らしていると中々縁遠い存在だとは思うのですが、今その海女という働き方が窮地に陥っています。そんな状況を打開するため、海女さんの町、鳥羽に住む高校生らが、VRと360度カメラの力で海女さんを救おうと試みています。


RICOH THETA SC2のレビューを見る

海女の減少問題

そもそも海女とは、海に潜って貝類やウニ、ナマコ、海藻類を獲ることで生計を立てる働き方です。他にも昔は、真珠養殖などにも携わっていました。漁以外に、天候が悪くなった際には貝類を安全な場所へ逃すなどの役割も担い、海と付き合う上では不可欠な存在です。

ちなみに男性の場合は「海人」と表記されて書き分けられているそうですが、漁船などが発達してからは男性の海人は珍しくなり、海女=女性というのが一般的になりました。

現在は海女の暮らしを擬似的に体験することのできる「海女小屋体験」といった、観光業的な部分でも活躍しています。冒頭で紹介した『あまちゃん』の影響も、海女さんたちのこういった活躍に大きく関係しているのではないでしょうか。

しかし現実的な面で見ると、海女という仕事は現在厳しい所に立たされています。何と言っても大きな問題なのは、その人数です。海女さんが存在するのは主に鳥羽や志摩地方ですが、後継者不足や海女さんの高齢化、漁獲量の低下といった問題が重なり、職業としての海女を存続することが大変難しくなっています。

三重県教育委員会が出している鳥羽・志摩魚撈調査報告書と、海の博物館による調査を参考にすると、1949年(昭和24年)時点では鳥羽市、志摩市を合わせて6,000人以上存在した海女操業人数が、2017年(平成29年)では660人と、約10分の1まで減ってしまっています。10年前の2010年(平成22年)では973人いたので、このままのペースでいくと、更に10年後にはいよいよ海女さんがほとんど存在しないという事態に陥ってしまうことが予想されます。

全国的に見ても、海女さんは1,400人前後まで減少しており、鳥羽・志摩だけの問題ではなくなってきています。平均年齢も70代と非常に高く、技術の継承を急ぐ意味でも、若い海女さんの増員が急務となっています。

3000年の歴史がある海女業を絶滅させるのは本当に勿体ないことですから、手遅れになる前に何かしらの対策が必要になるわけですが、そこで注目を集めたのが360度カメラとVR技術です。

鳥羽の高校生が海女さんVRを製作

海女業の存続に対して危機感を抱いているのは大人だけではありません。三重県の鳥羽港に通う生徒たちは海女さん不足を解消するために、VR映像を製作・上映しました。

発表が行われたのはつい先日、2020年1月17日で、メディアの勢いも乗せるために記者会見も開かれました。これだけでも彼ら若者の本気度がうかがえますね。VR映像の製作に先駆けて、彼らは地域学習授業の一環として昨年の9月~11月の間、鳥羽市石鏡町の漁港近辺を360度カメラで撮影しました。撮影した動画は編集され、VRコンテンツとして適したものに作り変えられています。

海女の後継者不足を解消するためのVR制作なので、当然海の中の映像も欲しいところですが、この部分に関しては実際の海女さんに依頼したそうです。こうして出来上がった石鏡町の海女文化VRは、鳥羽市立海の博物館で5月初旬まで一般に公開されることが決まっています。映像内では石鏡の風景が見られる以外に、海女小屋の中にある暖炉で温まる擬似体験ができたり、海女さんが素潜り漁でサザエを獲る様子を間近で目にしたりすることができます。

アプリでも体験可能

鳥羽高校が製作したVR映像は前述したように鳥羽市立海の博物館で体験できる他に、iOSとAndroidに対応しているVR動画配信・再生アプリ『Blinky』でも視聴することができます。鳥羽市まで足を運ぶのは大変かもしれませんが、この方法であれば全国どこにいても簡単に見られますね。

アプリをダウンロードできない環境にいる方や、ブラウザから視聴したいという方は、こちらからも動画の再生を行えます。ただしVR対応動画ではなく平面的な動画となってしまうので、没入感を重視する場合にはアプリからの視聴を推奨します。

VRをきっかけに文化を考える

海女さんに関するVRは、彼女たちの存在や文化を見つめ直す上で、とても重要なトリガーになるのではないでしょうか。海女さんは年々減少傾向にありますが、2014年には海女文化が全国で初めて、県内の無形民族文化財に指定されており、国がその重要性を認めているのです。

これは海女文化が単なる観光資源の一つ、職業の一つという枠組みを超えたという事実に他ならず、傍観する立場にある我々も「消えかけている職業」という認識ではなく、「守らなければいけない伝統的な職業」という捉え方をしなければいけません。今回鳥羽高校の生徒たちが製作したVRも、単なる体験動画ではなく、海女さん達を取り巻く環境について問題提起する作品になったのではないでしょうか。

漁獲量の減少が問う人間の業

海女さんの減少問題は高齢化や人口の一極集中など、多く考えられますが、先にも述べた通り漁獲量の減少はかなり直接的な要因となっています。海女さんはむやみやたらと海の生物を乱獲するのではなく、定めたサイズに満たない獲物は再び海に戻したり、漁の時期を決めたりしています。

必要最低限の命をいただくことで、また次の季節、次の年も海の恵みを受けるという考え方です。貝類にしても他の生き物にしても、海の資源は無限に存在するわけではないので、この漁の仕方は理にかなっています。ですがそんな海女さんの努力も虚しく、悪質な漁師による乱獲や、環境汚染による水質の変化などで漁獲量は減ってしまい、海女さんが暮らせない状態になってしまっています。

この話を聞いた私は、オーストラリアの火災について考えました。同国では頻繁に火災が起こりますが、2019年末から起こった大火災でも1000万ha以上が焼け野原となっています。一部ではその原因を地球温暖化などと報じていますが、一方で放火とする見方もあります。

実際にCNNなどの報道では、放火の容疑で多数の人が検挙されています。彼らの動機は分かりませんが、海の資源を乱獲する密漁者や海を汚す人、そして森を燃やす人はいずれも自分本位な考え方をし、他の生き物や人間の立場を完全に無視した行動を起こしています。

そういう一つひとつの出来事が回り回って、海女という職業を追い込んだり、生物の暮らし場所を奪ったりしているのでしょう。日本のどこかで海女と呼ばれる職業が消えかかっているらしい、なんていう他人事ではなく、我々はこの問題一つとっても、その業の深さについて真剣に向き合わなければいけないのかもしれません。

終わりに

正直始めは海女さんと言われてもあまり馴染みがなく、これまでは「海に潜って漁をする職業」程度にしか考えていなかったのですが、調べていく中で根本的な考え方が変わっていくのを認識しました。海女さんが行う伝統的な漁は、それ自体が貴重なものであると同時に、現代を生きる我々の価値観に問いかけてくる力強さ、合理性のようなものも孕んでいると感じさせられました。


RICOH THETA SC2のレビューを見る

Like@Wrap
Follow@Wrap

スポンサーリンク