映画に出てくる360度カメラで考える、AIと人々の未来
新しい技術が生まれることで、かつてはSF映画や小説の中だけだった出来事が、徐々に現実味を帯びてきています。スマートフォンなども、かつてはSF映画に出てくるような端末でしたが、今は当たり前に我々の日常に馴染んでいます。他にも、現代では当たり前になった技術に酷似した道具が「ドラえもん」の中で登場していたなんていうこともあります。今回はその中でも比較的人気の高いテーマであるAIを取り扱った映画『AI崩壊』をご紹介しつつ、360度カメラとSFについても考察していきます。
人工知能が暴走する映画『AI崩壊』
先日1月31日から公開された、入江悠氏が監督・脚本を担当し、大沢たかおさんが主演している映画『AI崩壊』は、その名の通りAIを取り扱った作品となっています。賀来賢人さん、広瀬アリスさん、岩田剛典さん、玉城ティナさんなど、今旬の役者陣が脇を固めているところも注目ですが、やはり気になるのは扱っているAIというテーマです。
監督の入江氏は『SRサイタマノラッパー』や『22年目の告白-私が殺人犯です-』も手がけており、サスペンスやエンタメにも定評があります。その監督が今回近未来を舞台にした作品を打ち出してきたわけですが、その世界は一体どのようなものなのでしょうか。崩壊という物騒なフレーズと「その日、AIが命の選別を始めた」というキャッチコピーもそそられますが、簡単にストーリーを見ていきましょう。
『AI崩壊』のストーリー
舞台は2030年、医療や金融、セキュリティといったシステムの他、交通などのインフラまでもAIが支えている時代の日本が描かれています。物語は7年前の2023年まで遡ります。当時、大沢たかおさん演じる天才科学者桐生は妻の望(松嶋菜々子さん)と共に医療AI「のぞみ」を開発していました。
しかし認可の下りないAIは導入できないという決まりになっていたため、「のぞみ」が実際に導入されたのは一年後の2024年です。この間に桐生の妻、望は癌で亡くなってしまうのですが、導入を機に望の弟、西村悟(賀来賢人さん)がHOPEという企業を立ち上げ、「のぞみ」の開発に一層力を入れていきます。その甲斐あって、2027年頃には「のぞみ」は更なる進化を遂げ、腕時計型端末を通して国民のバイタルチェックを実現。病の発見も早期に行えるようになりました。
完璧かに思われた「のぞみ」ですが、ある日突如として暴走を開始します。関連する医療システムの誤作動による殺戮を開始し、それを受けて開発者の桐生もテロ首謀者として指名手配されてしまいました。人の価値が問われる未来で、人類の選別を開始したAIを前に、人々はどのような行動を起こしていくのでしょうか。
映画『AI崩壊』本予告 2020年1月31日(金)公開 – YouTube
監督が語る360度カメラの恐怖
『AI崩壊』は入江監督のオリジナル脚本を映像化したものですが、その作り込みを見ると、氏がどれくらいAIや監視社会など、近未来のテクノロジーに対して造詣が深いのかが読み取れます。
それもそのはずで、入江監督はこの作品を撮影するにあたって、専門家の元へ通ってAIについて学んだそうです。その上で、現実に起こりうる世界を想定しながら撮られたのが『AI崩壊』なので、この物語も創作として割り切って観るのは早計かもしれません。
「のぞみ」は医療特化型のAIですが、本作には別のAIも登場します。それが警察のAI「百眼」です。百眼は防犯カメラなどの映像情報と、人々のクレジットカード番号、免許証などの個人情報を探知しながら対象者を探し出す捜査型のAIです。
我々が使っているスマートフォンや、街中に設置されている監視カメラなどの映像も百眼は盗み見ることができるわけですが、このように秘密裏に情報が抜かれ、警察の捜査に利用されることは未来の日本でも十分に考えられます。『AI崩壊』の主人公、桐生もこの捜査方法によって追い詰められ、次第に行き場を失っていきますが、こんなことが現実に起こったら、犯罪者や逃亡者は確かに一網打尽だと思います。
入江監督もインタビューの中で「360度カメラで撮られているので、全然死角がなくて逃げられない」と語っています。これはあらゆる場所に人の目と、その人の使っている情報端末というもう一つの目が監視カメラのように張り巡らされているという意味合いですが、別の意味での脅威も感じられます。
例えば、360度繋がりで言うと全天球カメラもそうです。スマートフォンに搭載されているカメラのレンズは撮影できる角度も限られていますが、360度を撮影できるカメラだと、全く死角がありません。そうなると、360度カメラを持った人間が、監視社会の集大成のような存在だと考えることもできます。
東京オリンピックに備えて、東京を中心に監視カメラの数を増やす話は現実に出ていますが、360度撮影可能なカメラを配備する話も上がっており、これはあながち極論や曲解とも言い切れません。
成田空港を警備する警備ロボットにも360度カメラが埋め込まれていますし、360度撮影に対応しているドライブレコーダーなんていうのも当たり前に存在します。
それ以外にも、日常を撮影するために使うTHETAやInsta360といった一般消費者向けのカメラも合わせれば、どれだけの360度カメラが私たちの身の回りに溢れているでしょう。その中で通信機能を有している端末の映像を秘密裏に抜き取れるとしたら、いよいよ本当に隠れる場所がありません。
人間に委ねられるテクノロジー
『AI崩壊』のストーリーを読んで、真っ先に思い浮かんだのは2016年に公開された映画『スノーデン』です。アメリカ政府による国民の監視をエドワードスノーデンが暴露したことを元にした映画ですが、百眼の監視捜査と通ずるものがあります。
この話は世界中にも衝撃を与えることとなりましたが、組織による個人の監視は既に現実のものとなっているのです。
ではその手段として使われているシステムやコンピューター、スマートフォン、果てはカメラのレンズが悪いのかと言われれば、そんなことはありません。これらのテクノロジーは正しく使うことができれば本当に便利ですし、生活の質を間違いなく向上させてくれます。
360度カメラの監視カメラは従来型のものよりも多くの記録能力がありますし、犯罪の証拠を記録する上でも活躍してくれます。ただその延長で、個人の360度カメラやスマートフォンをクラッキングするのは事情が違いますし、それは正義のための行為ではありません。テクノロジーは、それを扱う組織や個人によって、簡単に善悪の振り子が傾いてしまうからこそ危険なのです。
360度カメラも、個人消費者向けに販売されているリーズナブルなものから、業務用に使われている高価なもの、特殊な環境下を想定して作られた特注のものまで幅広く存在しますが、それはこの機器が優れていることの裏付けに他なりません。だからこそ、我々がそれをどのように扱うかということを、今一度考えなければいけないのかもしれませんね。
終わりに
当サイトでは様々な360度カメラの使い方、使われ方をご紹介していますが、そのどれもがアイディア性に溢れ、興味をそそられるものばかりです。特にビジネスシーンと360度カメラの相性は抜群で、私もそれらを紹介する度に、いつもその独創性に驚かされます。大半のシーンにおいて正しく、そして有益に使われている360度カメラだからこそ、このまま正統派の愛され方をしてほしいと人一倍願ってしまいます。
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