360度カメラと5Gの力で除雪車を遠隔指示。北陸初、福井県で導入

筆者:阿久津 碧

東北地方や北海道では毎年雪との付き合いがありますが、雪かきは中々に重労働ですし、時間もかかります。雪かきによるお年寄りの事故などもあり、高齢化などの影響もあって雪に関連するトラブルは年々深刻化しています。当然雪の多い地方では、大きな道路や平場の駐車場には除雪車が入りますが、除雪車の数や、それを運転している人の数にも限りがあるため、それも完全ではありません。そんな降雪地方の除雪問題を解決するのに、5G技術や360度カメラの力が役立つかもしれません。

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福井県で除雪車の遠隔操縦実験

2020年1月30日、福井県の永平寺町で、ある実証実験が行われました。それは5G技術を用いた除雪車の遠隔操縦実験です。舞台は永平寺緑の村四季の森文化館で、この試みに際しては永平寺町だけでなく、総務省やNTTが協力し、実際の除雪作業を想定した実験が行われました。当日は暖冬の影響もあって実際の雪はありませんでしたが、雪を模した障害物などを使用し、リアルなケースを想定して実験を行いました。

総務省では2019年度に5Gの実証実験を全国23箇所で実施しましたが、北陸での実験は永平寺町のみとなっています。きっかけは2018年度に総務省が企画した『5G活用アイデアコンテスト』で、除雪車の遠隔操縦は地域課題解決賞を獲得しました。当日の実験では5Gを使えるように設定した環境が設けられ、4K映像を撮影できる360度カメラが搭載された除雪車も用意されました。

除雪車の視点を360度カメラで撮影し、その高画質な動画を高速で別の場所に転送するという流れです(今回は転送先として、降雪対策本部を仮定した会場が設営されました)。通常、高画質な動画を別の場所にリアルタイムで転送するとなると、どうしても大容量の通信が必要になるので、従来の通信方式だと無理がありました。転送すること自体は可能ですが、データ容量の関係上、タイムラグが生じてしまうのです。

しかしリアルな現場で、除雪車の映像を送るのにタイムラグがあっては困ります。人や動物、車の飛び出しがあるかもしれない現場で、遠方から指示を送るのに、ワンテンポもツーテンポもラグがあるというのでは、正直使い物にならないでしょう。5Gはそれらの問題を解決することが可能で、高画質の撮影映像であっても、瞬時に別の場所に転送することができます。

このとき、転送するのはただの高画質映像ではなく、全天球の高画質映像なので、通常の動画よりも更に大容量になります。ですからこの技術には5Gが必要不可欠なのです。全天球映像であるメリットは大きく、指示する側も後方確認をしながら行えますし、積雪状況やリアルタイムでの雪の降り方、除雪状況なども瞬時に空間ごと把握できます。

除雪車から対策本部への一方通行な送信ではなく、双方向での通信が可能なのも5Gの心強い点です。双方のコミュニケーションが円滑に図れるので、除雪作業員不足問題に対しても有効な対策手段となることが期待できます。

VRゴーグルによる現場把握

除雪車に搭載された360度カメラの映像は、VRゴーグルさえ用意すれば、転送先にいる人は誰でも立体的に体験することが可能です。それによって、除雪車から離れた場所にいても、まるで運転席にいるかのような体感で指示を送れます。実証実験の中でもそのようなシーンが見られ、担当者がVRゴーグル越しに除雪・排雪指示を行いました。

他にも巡回車と除雪車のGPSデータと、除雪車が撮影している4K映像を地図上に表示する技術も実証実験では披露されました。このデータを一般に公開すれば、近隣の除雪状況を視覚的にも把握できますし、情報もスムーズに行き渡ります。

撮影映像に関しては一般配信される予定はありませんが、将来的に5Gが世間に普及したら、住民やネット上に公開しても面白そうです。高さのある雪を除雪車で退ける映像はダイナミックでしょうし、本来の目的とは異なりますが、一つのコンテンツとしても個人的にはとても興味深いです。日頃乗ることのない除雪車に乗車しているような仮想体験は、意外に需要もあるのではないでしょうか。

災害対策としての遠隔指示

雪かきによる事故については冒頭でも述べましたが、360度カメラ付き除雪車はそういった事態に対する対応策にもなるのではないでしょうか。雪によって引き起こされる事故としては、雪崩や大規模な凍結があります。他にも、細かいものでは落雪や除雪時の転倒、除雪機の横転、除雪機による事故、屋根からの転落などが挙げられますが、これらを全て合わせると、毎年相当な件数が報告されています。

除雪車に対する遠隔指示は上記の場面でも活躍が期待できます。雪の事故は寒さとの戦いでもあるので、救助にはスピードが求められますが、VR映像は人の目では視認しにくい場面でも情報収集できる側面もありますし、適切な指示を離れた場所から送れるのは大きな強みです。救助が遅れたり運が悪かったりすると死者が出るケースもある危険な現場ですから、救助する側の二次災害を防ぐ意味でも有用でしょう。

また、遠隔指示の汎用性は高いですから、雪害以外の自然災害でも同様の活躍が期待できます。例えば、360度カメラを除雪車ではなく、ショベルカーや救助用車両、特殊車両に取り付けて、遠方から指示を送ることもできるわけです。地震による家屋の倒壊、土砂崩れ、火災現場など、様々なシーンに導入の余地が存在します。そういう意味では、今回の実証実験は除雪が主旨でしたが、災害全般への対応策としても大きな成果となったのではないでしょうか。

自動運転技術との併用にも期待

除雪車の視点を遠方から確認して指示を送るというのは、それだけでも画期的な発想です。と同時に、この実証実験を通してどうしても期待してしまうのが、自動運転の実用化です。当サイトでは過去に自動運転に関するニュースもご紹介しましたが、自動運転と360度カメラの繋がりはとても密接です。

自動運転に360度カメラの技術を生かす。横浜で実証実験が開始

上記の記事でも書いているように、既にバスのような大型車両であっても自動運転は実証実験段階に足を踏み入れています。5G環境や安全面での細かい調整、法整備などの問題はあるので、まだまだ実用化には時間を要しますが、実現性はかなり高いところまできているのです。

これらの状況を踏まえると、遠くない未来には、無人の除雪車両が雪国を走り回る未来も現実のものとなるかもしれません。そうなれば、遠隔指示を超える人員不足の解消案となりますし、人員を他の場所に回せることによって、雪による事故を減らすことができます。農業などでも自動運転車両は実用段階になっているので、残す最大の問題は公道を無人の車が走ることに対する社会の評価だけです。

とは言え若者は減り、雪は毎年積もるという状況が改善される余地は今のところないので、技術による解決は最も合理的で画期的なようにも感じられます。今から想像するのは少し難しいですが、自動運転が一般化した未来では、除雪は人の仕事ではなくなっているかもしれません。

終わりに

冬季の暖房費高騰や雪かきのための早起き、定期的な雪退けなどは降雪地帯の日常です。しかしそれらが日常だからといって、当然喜んでやっているわけではありません。ある程度慣れていても面倒に思いますし、除雪が行き届いていない地域では、通勤への障害などの実害も発生しています。つまり、雪国での暮らしと除雪は切っても切れない関係にあるのです。しかし除雪車の遠隔指示や360度カメラ搭載型の除雪車は、その関係性をこれまでとは違うものに変えてくれる、大きな要素となるかもしれません。

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